シンジから葉書が来た。


あ、シンジっていうのは、わたしのまあ、ボーイフレンドの一人ね。

この冬休みはわたしをほっぽって、何か田舎のほうのおばあちゃんのうちに遊びにいっちゃってる。

文句の一つもいってやろうかと思ったけどさ、電話なんかかけるといかにもわたしがシンジにこだわってるみたいでくやしいから、

シンジのお母様が電話番号を教えてくれようとした時に、たいした用じゃないからって、断わっちゃったの。

ちょっと後悔してたからうれしかった。うれしかったっていっても、あるべき姿だって思っただけだよ。


わたしは一人暮らしなの。交換留学っていうやつ。ママのお母さんが日本人だったからね。わたしもママも日本語が話せるの。

そんな関係でママは日本に一度むすめを行かせたいって思っていたみたいね。



こっちに来てみると、わたしは日本人から見るといかにもっていう外国のかわい子ちゃんだったらしい。

人気大爆発って感じでさ、新聞やTVの取材までくるんでびっくりしちゃった。

でもその後は遠巻きっていうかそんな感じで結構寂しい思いもしてたわけ。

そこに出てきたのがシンジよ。こいつはなんていうか、ぼけたやつでさ。皆が騒いでいるときには全然寄ってこなかったの。

それなのにわたしがちょっと寂しくなってきた頃に、方向が同じだからとかいって暗くなると必ず送ってくれたり、

雨が降ってきたときに傘を貸してくれたり(勿論ぼけた奴だから自分は濡れて返った訳よ)、

風邪引いたときにお母様が面倒見に来てくれたり(あいつが頼んでくれたらしいのよ。)、

で、大分借りができちゃったの。


でも、友達だから当り前だろって、本気でそう思ってんのよ。ちょっとくやしいじゃない。

それでね、まあなんていうか、わたしは借りを返す機会を伺っている訳なのよ。本とにそれだけの関係よ。

変な勘繰りするんじゃないわよっ。


学園エヴァ
アスカとシンジの冬休み

こめどころ




さて何、話してたんだっけ、そうそう葉書よ、葉書き。

明けましておめでとうっていうのは、時候の挨拶って奴よね。一月だからかしら、クラスの子からもいっぱいきたのよね。

日本人て律儀よねえ。感心するわ。もっともあれだけ騒いでたくせにクリスマスカードは一枚も来なかったのよね。

みんなに出しまくってたわたしはかなり落ち込んだけど。


それで、シンジの葉書には、こう書いてあったの。

「元気で冬休みを送っていますか。ぼくは祖母の家で2人で新年を迎えました。こちらは雪もいっぱいで、素晴しくきれいなところです。

惣流さんも近くに来る事があったら是非来てくださいね。」

あらあ、あいつにしては上出来じゃないの。

やることがなくて退屈していたわたしは、地図を引っぱり出してすぐに行くことにしたわ。

えっと、ニイガタ?そこから在来線でいけばいいのかしらね。オジヤシティって。あとは向こうについてから聞けばよしっと。

雪がないクリスマスがつまらなかったのもあってちょっとわくわくしてシンジの所に出かけたのだった。



トンネルを抜けるとそこは雪国であった。

ノーベル賞作家の小説はさすがに嘘がなかった。

「わあああ、雪だあ。」

おもわず窓に張り付いてしまった。しかもわたしの故郷と同じ杉の森が続いている。思わずママの顔を思いだしちゃった。

わたしの故郷、ニューヨーク州北西部の山の中、イサカ市。

細長くいくつも並んだフィンガーレイクのひとつ、カユガ湖の南端にある小さな町。この辺りはわたしの故郷に感じが似ているわ。

ターミナルのある比較的大きな町から在来線に乗り換える。ごとごとゆられて20分。待ち時間が長かったから、

東京から約4時間余りでオジヤについた。さてここからさらにバスかなんかに乗るんだけど・・・

この字なんて読むのかしら。困ったな。だれかに聞こうと思って歩いている人に近寄るとすすすすーっと逃げてしまう。

噛みつかないから誰か助けてよ。こっちはちゃんと日本語で「すみません教えてください」って言ってるのに。

「あいきゃんのっとすぴーく」とか何とかいって逃げていってしまう。

しょうがない、こうなったらタクシーだ。



「此処に行ってください。」

「え?うーんこれは・・・、ここは冬期は行かないところなんだよ。近くまででいい?」

そうなの?じゃあ、そこからはまた歩くかなんかすればいいのかな?

「じゃあ、いけるところまでお願い。」

わたしはたいして深く考えもせずにタクシーに乗り込んだ。

そして、熱気球の大会で数十もの気球が浮かんでいるのを眺めたりしていた。


気が付くとタクシーは両側が雪の壁で何もみえないところを走っていた。

「あ、あのー、まだ大分かかるんでしょうか。」

「後30分くらいかねえ。」

「さ、30分?」

「それくらいで、ロープーウェイの発着場だよ。冬はやってないけど。そこまでしか行けないんだ。」

「あ、あのそこから先は・・・。」

「え、お迎えがきてるんじゃないのかい。」

「思い立ってきたもので。」

「ええっ。冗談いわんで、電話もなーんもないとこだよ。」

「えええーっ。」

タクシーの運転手さんは、発着場につくと無線で会社に連絡をとってくれた。

碇なんて名字は珍しいからすぐに見つかったけど、その間、わたしは不安で不安で殆ど泣きそうになっていた。

「役場の人が迎えに来てくれるちゅうから、あそこの待ちあい小屋で待ってるとええよ。着いててやりたいが

わしも仕事があるんでの、すまんの。」

「いえ、ありがとうございました。助かりました。」



わたしはボストンバッグを抱えて人っ子一人いない待ち合い小屋に入った。びゅうびゅうと吹く風に雪が
かなり交じり始めた上に暗くなってきた。

バッグを抱きしめて、ベンチにすわった。

一時間くらいじっとそうしていただろうか。真っ暗ななかにガラガラという変わった音が聞こえてきた。

わたしの息で真っ白になった窓を拭くと、雪上車がみえた。迎えが来たようだ。わたしは小屋から飛び出すと、

毛糸の帽子を振り回した。

「惣流っ!惣流かいっ!」

信じられない。雪上車から飛び降りて走ってくるのは碇君だ。

「あっ、シンジーッ!!」

不覚にも知ってる奴の顔を見たとたん、涙腺がぶっ壊れてしまったらしくて、わたしはべそべそ泣きながら

駆けよってきたシンジにしがみついていた。

「うわあああーん、シンジイー!!寂しかったよう!」

「よしよし、もうだいじょうぶだよっ。タクシーの運転手さんと役場と両方から青い目の赤い髪の女の子が

僕を探して尋ねてきてるってきいて、惣流さんのことだとすぐわかったからね。役場が雪上車を出すっていうんで、
一緒に来たんだよ。」

シンジは泣きじゃくるわたしにそういいながらぎゅっと抱きしめてくれた。

なんていうか、その時、すごく安心したの。なんか、約束の場所に帰ってきたみたいに。

うれしくて、恥ずかしくて。凍りそうに寒いのに顔も身体もかあっと熱くなるのがわかった。

「来て、よかった。」



雪上車に乗り込み、シンジの家に向かいながらそう思ったとき、あいつは言った。

「でも、何でこんなとこにまできたの?」

「へ?だって、あんたが遊びに来いって誘ってくれたんじゃないの。」

後で、ママに事の顛末を報告したら大笑いされたわよ。近くに来たら是非寄ってとかいうのは儀礼的表現なんですって?

一月に一日にいっぱい手紙が来るのは年賀状っていう習慣なんですって?

冗談じゃないわよ。



次の日には碇のおばあさんの所にきてる孫息子のとこに、吹雪のなかを後を慕って金髪の美少女がやってきた。

涙の抱擁を交した。一大ラブストーリーだってことになっちゃってさ。

普段静かな碇のおばあさんのおうちは、千客万来で大わらわ。

みんな当然わたしに会っていきたい訳だから出ない訳にいかなくて、そのたびにシンジと手をつないで写真とられた。

ほっぺたにキスしたり、まあそのくらいは、わたしには習慣的にもどうってことないんだけどシンジは相当応えたみたい。

くすくす。

でもね、おかしなもんで、あのニブチンのシンジもこうして毎日恋人っていわれてると、わたしがなんでシンジの
年賀状のたった一言だけに反応して遠くまでやって来たかはわかったみたいね。

冬休みもあと3日になってから二人でやっとスキーとかにもいける様になったの。

そして、ゲレンデのはずれの山々が折り重なるきれいな景色の展望台で、本物のキスをしてくれたの。

えへへ。あいつもわたしのことちょっとは意識してくれてたみたい。

これでめでたくシンジはボーイフレンドから恋人に昇格させていただけたという訳。

ありがたくおもいなさいよ。これからは天下晴れてわたしの荷物なんかも堂々と持てるのよ。



と、アスカは此処まで書いたとき、シンジがノートを覗き込んでいることに気が付いた。

「あっ、なに読んでんのよ。」

「勝手な事書いてるなあと思ってさ何で僕がアスカの荷物を持てるのに感謝しなきゃいけないのっ!」

「うっさいわねえ。男は細かいことでぐずぐずいわないっ!」

「アスカはずるいよ。雪上車のとこでしがみついてきたときは、あんなにかわいかったのにっ。」

「なんですって、今はかわいくないとでもいうのっ!」

「そうだよ、あの展望台のときだってもう離さないでくれる?なんて言ってくれたのにな。」

爆発したようにかあっと赤くなるアスカの顔。

「ああああああああれは、その何だ、勢いっちゅうか、そのあのさ。」

「もう一度言って、アスカ。あそこで言った言葉

「ばか。こんなとこで。それにもう忘れちゃった。」

「わたしあなたのこと、大好きみたいなの。悔しいけど、あんたの夢ばっかりみるのよっ、って」

「わーっわっ、ばかーっ!こんなとこでなんて事いうのよーっ忘れろ!全て忘れろお!!」

二人はばたばたと部屋のなかを走りまわった。

「さあさあ、おやつにしましょうね。二人とも静かに座りなさい。」

シンジのお母さんがゼンザイを運んできた。

「いいわねえ。あのくらいの恋人同士って初々しくて。」

一階に降りたユイは、頬を染めてため息をついた。

「ユイ、おまえだって素晴しくかわいかった。ごほん、今もだがな。」

怪しい黒眼鏡。シンジの父である。この顔で大の甘党。ぜんざいは彼のリクエストである。

「あなただって、かわいかった。怖そうなのにとても純真で。」

父は顔を染めた。母も。

息子と嫁(まだ早いがそう呼ばれている)はまだキャーキャーやっている。





平和な正月風景であった。






お正月特番LAS。「アスカとシンジの冬休み。」END.


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