くわえた煙草に火をつける少女。
吐き出された煙。ゆらゆらと形を変える。
ぼんやりと何も考えていない時間が漂っていく。
「さあ、こっちへおいで。」
バスローブを脱ぎ捨てた男が声をかける。
少女は立ち上がると、震える手でショーツを脱ぎ、ベッドに向かった。
男は少女の手をつかむとベッドに引き倒した。
「あっ。」
男の指がブラをあっという間に外し取り、少女の女を盗む。
「ひっ!」
高い悲鳴が唇から漏れる。
これはLASですか?
アスカとシンジ
ミッドナイト
こめどころ
バタン!
ドアが急に開いた。
とっさに飛びついてテレビのスイッチを切った。
「あらあ〜。シンジ君いったい何を見てたのかなあ?」
腕を組み、居丈高に睨みつけるアスカの姿があった。
「な、んだよっ!急に、入ってくるなんてひどいじゃないかっ。」
爆発しそうな心臓を抑えてシンジは必死で言い返す、が形勢は不利だ。
「いいのかな、ミサトを呼んじゃおうかなあ〜。」
にやにやしながら、近づいてくるアスカ。
テレビのスイッチをいれようと手を伸ばす。
「や、やめろってば!」
手をつかんで触らせまいとするシンジ。
しかし、あっという間にアスカに逆手を取られる。
「ふん!」
「いててててて。参った、参ったアスカ。」
「生意気言ってんじゃないわよっ。このどすけべおとこっ。誰に借りて来たのよっ。」
「ビ、ビデオ屋で自分で借りたんだよっ。」
しらを切るシンジ。この辺はさすがに男の子である。口を割りそうにはない。
「ま、大体想像はつくけどさ。明日はヒカリと一緒に絞めてやんなきゃだわね。」
「やめてよっ、トウジは関係ないよっ。」
いわずもがなである。
ビデオは回り続けている。シンジを抑えつけたままアスカの手が伸びる。
そしてイヤホンがジャックから引きむしられる。
パチッ。
汗まみれの少女の顔のアップ。
「はあ、はあ、はあ、ああああっ!」
繰り返される少女の甘い矯声。
なみだ顔のアップと激しい吐息。
「いやらしいっ。何でこんなもの見るのよっ、シンジの馬鹿ッ!!」
ばしっ。
シンジの頬が激しい音を立てる。屈み込んだシンジのボディのさらに鋭い蹴りが一発。
「ぐえっ!!」
つぶれたかえるの様な音を立てて吹っ飛ぶシンジ。
バターンッ。
激しい音と共に叩き付けられるドア。ドスドスと荒い足音を立てて去っていくアスカ。
さらに自分の部屋の襖が叩き付けられる音が響いた。
「ああっ、いやっいやっ、はあはあはあ、あああーっ!」
部屋のなかに少女の絶叫が響く。
だがその声はもうシンジを少しも興奮させなかった。
「どうしよう。」
コードをつかんでコンセントから引っこ抜く。
「ああ、ショックだ。」
普通を装って声を出すが内心シンジは絶望的な気分だった。きっともう決定的に嫌われてしまったに違いない。
悪友の口車に乗せられた自分が馬鹿だったのだ。
「おー、碇くん。」
「センセ、ちょっとちょっと。」
休み時間、シンジはいつも悪友ふたりに強引に屋上に引っぱって行かれた。
「なんだよ。」
「まあ、みいや、この衝撃的なケース。」
ドキン!!胸がいたいほど大きな鼓動。
シンジは目を剥いた。
「へへえ。やっぱりびっくりしたみたいだな。」
「ワシ等も、これを見つけたときは、ちょーびっくりしたんやでえ。」
18禁物の扇情的な写真はともかく、そのえげつないビデオの女の子は、とにかくアスカにそっくりだったのだ。
ハーフなのだろうか。明るい栗色の髪、大きな青い瞳、白い肌、細い腰と長く伸びた脚。
少し憂いを帯びた悲しげな眼差しでこちらを上目使いに見あげる表情は見る者の保護者意識と征服欲を見事に刺激する。
背後から伸びた男の手にわしづかみにされた乳房からどうしてもシンジは目が離せなかった。
「なんだよこれっ!」
ひったくるようにビデオを奪い取る。出演者を見ても当然赤の他人。
それでもシンジは安堵のため息をつかずにいられなかった。
「相当焦ったようですなあ。へへへっ。」
「センセもホントは惣流のこんなビデオを望んでたんやないか?なあ。」
「男なら当然だよな。」
「ば、ばかいうなよっ。」
「よっしゃ、ここはひとつ男の友情に免じてこれをお貸ししようと思うんやが、どないだ?」
「おっ、トウジさん、熱い友情、泣かせますねえ。」
「せやな、自分でも惚れ惚れする男っぷりや。」
「こんなもの、いらないよっ。」
「そうかな、中身はもっとえげつないでえ。あーも、こーも、XXXでXッXX XッXXなんやで。」
「ま、無理に、とはいわないよ。」
二人は顔に勝利を確信した笑いを浮かべてにやりと笑った。
授業は上の空だった。アスカが話しかけてくる度にどきどきと心臓が高なる。
「僕ってこんなにすけべなやつだったんだ。」
一緒に襲ってくる自己嫌悪。
「どうしたの?気分でも悪い?熱があるのかな。」
アスカの顔がまじかに寄ってきて、甘い香りが鼻腔を刺激する。
「え、なんでも、ない。大丈夫だからあんまり構わないでよ!」
「何よそれ、失礼しちゃうわね。せっかく心配してやってるのに。」
(「今、近くに来られると、辛いんだってば。」)
心のなかでつぶやくが彼女に伝わる訳もない。機嫌を悪くしてアスカ退場。
どきどきしながら再び自己嫌悪。
そんな一日の授業が終わり、へとへとになり、結局ビデオを貸してもらってシンジは家路についた。
其の日、アスカはやけに機嫌がよくて昼間にぷんぷんしてた事なんてわすれたように良くしゃべって、
一人でけらけら笑っていたけど、シンジはそれどころではなかった。
「ねえ!きいてるのっ。」
「あっ、ごめんごめん。夕食の献立考えてたもんだから。」
「夕食かあ、ハンバーグばかりだったから今夜はカキフライなんかどうかなあ。シンジも好きでしょ。」
「う、うん。お刺身もいいね。」
「なあにいってんのよっ!人の話、聞いてないんじゃない?!」
「ごめん。ロールキャベツだっけ?」
「・・・だめだあ、こりゃあ。」
鞄のなかの秘密にどきどきしながら夕食を作り、宿題を済ませ、風呂に入り、寝床を敷いた。
アスカがお気に入りのTVを見終わって部屋に引き上げてから、食事の後片付けをし、トイレや洗顔を装ってアスカの
部屋の前を数回横切った。アスカが寝てしまう午前1時をさらに1時間過ぎてからビデオとTVのスイッチをいれた。
最初の15分はどうでもいいストーリー。いよいよ本番が開始された直後のアスカの襲来であった。
度肝を抜かれた。まったく予想もしていなかった。そしてあの顛末である。
もう駄目だ。もうアスカには口もきいてもらえないだろう。悪いことによりによってアスカのそっくりさんだ。
普通のHビデオとは訳が違う。賢い彼女の事だ、どういう下心で見ていたかは一瞬に判断できたに決まっている。
「あああああああ!!」
ごろごろとのたうつシンジ。もうだめだ。何といっても駄目だ。絶対に嫌われた。
「見てやる。」
突然シンジは開き直った。どうせ嫌われたんだ。見てやる。しっかり見てやらなきゃ。
思えば余りにも哀れな決断であった。余りにも受け身というか、主体性がないというか。
イヤホンを耳にはめ、コンセントを挿し、スイッチをいれた。
翌日、シンジは目の下を真っ黒にして2時間目から登校した。起きた時アスカはとっくにいなかった。
「センセ、大胆な重役出勤でんなー。」
「大分お気に入りのようで。」
(「おまえ達のおかげでひどい目にあったんだよ。馬鹿ヤローッ!!」)
大声で叫びたいシンジであった。
「は、はははは。すごかった。すげえよかったよ。」
精一杯の虚勢。むなしい。
「ヒカリ・・・。これ返すから。」
「どうだった。なんか興奮するシチュエーションだったでしょ?」
「ま、まあね。」
「混血の美少女と、青年の愛。
しかもあの子アスカにそっくりで、相手は碇くんそっくりの中性的な甘い感じの男性だったしい。」
「それって趣味悪いよ、ヒカリ。」
「あら、そうかな。喜ぶと思ったんだけど。あれ?アスカ今日はお化粧してるんだ。」
「夜更かししちゃったから、ファンデーションだけね。」
「ふふーん。」
「な、なによっ!」
「目の下、熊さんマーク隠れてないよ。」
「えっ。」
おもわずとっさにコンパクトを取り出して顔を確認する。
「なんとも・・・あっ、だましたわねっ!」
「へへっ、何回も見ちゃったんでしょ。きりきり白状せい!」
「7回見ました・・・・。」
がっくりとうなだれて親友に白状するアスカ。
実際はもっと見ている。余りの強烈な刺激に目が離せなかったのだ。まるで自分とシンジが・・・。
「あのばかったらさ。」
「ん?」
「同じビデオ見てたんだもん。」
「ええーっ!トウジのやつね!あいつに決まってる。」
ちょっと待て、ヒカリに怒る権利があるのか?
(「あいつも同じのをみてるとおもったらさ、なんかすごく興奮しちゃって。」)
変に意識しちゃって顔会わせられなくて朝も逃げてきた、とは口が裂けてもいえないアスカであった。
(「あいつも、結局あれから朝まで見てたの知ってるんだ。」)
実はアスカの部屋の押入からはシンジの部屋が丸見えの節穴があいているのだ。
(「昨日ヒカリにこのビデオを押し付けられたときはどうしようかと思った。
どきどきしてやたらとしゃべりまくって。変に思われたかもってまたどきどきして。」)
一日中ため息をつきながら暮らした二人。
結局また、帰りは一緒なのである。
ぱっと、シンジが先回りして道をふさぐように最敬礼で深々と頭を下げた。
「アスカ。昨日はご免っ。もう二度とあんなの見ませんからっ。」
「もう、いいわよ。怒ってなんかいないし。男の子だもんね。」
「ホントにご免。」
「でも、たった16才の女の子に限りない母性を求めたりするんじゃないわよっ!
ただでさえこの頃そういう甘ったれた奴が多いんだから。
ビデオやゲームに逃げないで現実の女の子をくどくのが先でしょっ。シンジッ。」
「は、はいっ。」
「気合い入れてわたしをくどきなさいよって言ってるのよっ。」
「????はいっ。」
一応返事をするシンジ。でも意味は全然通じてないようだ。ため息をつくアスカ。
「ま。さしあたりはわたしをもっと大事にしろって事よっ。」
「うんっ。」
今度は理解できたかな。
「じゃあ、今夜はアスカの好きな荒引きソーセージと温野菜のサラダを作るよ。ジャーマンポテトも。」
苦笑いするアスカ。
色気づいては来たみたいだけどまだまだだなあ。わたしの未来の旦那様は。
まあそのうち子供達にお話ししたりするにはいいネタだけどね。
「よーし、じゃあ、スーパーまで競争っ! ヨーイドンッ!」
言うが早いか、アスカは駆け出した。慌てて後を追うシンジ。
夕焼けの並木道にアスカとシンジの笑い声が響く。
明日もいい天気のようだ。
<ミッドナイト>おしまい1/7/2000