銀色の部屋

こめどころ




青白い月の影が部屋の中一杯に差し込んでいた。
銀色の輝きが部屋中に満ちている。
白く柔らかい喉にやつれた指が食い込んでいく。
子供の身体がぴくり、と痙攣する。
先ほどまで聞こえていたひゅうひゅうという呼吸音がもう聞こえない。
さらに、深く食い込んでいく指先。
もう少しだけ力を入れれば弱々しい拍動も止まってしまうだろう。
かすかな、鼓動が。

消える。

消えてしまう。

愛した娘。
この世の全て。
明るい笑顔と愛らしい声。

「ママ。」
「ママァ。」
「ママ、こっちに来て。」
「ママ、見て見て。」


「ママ!ママをやめないで!」
「一緒に死んであげる。だからわたしのママをやめないで!」


「わたしを殺さないで。わたしを殺さないで。他の人を思いながらわたしを殺さないで。」

私を殺そうとしたママ。

あの月影に満ちた部屋を忘れる事はない。

心の弱い人だった。

だけれど愛していた。
誰よりも憎んでいた。
世界中の誰よりも激しく。
けれど、誰よりもいとおしいその横顔。
その目は私を見る事はない。
どこか遠くを見ている。
それを知っていたけれど。


愛してくれないママ。
私の幸せだった幼い日々は、こんなにも簡単にほどけて砕けていった。
信じられないほど簡単に。
ママに私を見て欲しかった。


だから踊った。懸命に踊った。あなたの瞳の中で。

優しい声と微笑みが欲しかった。それは私の夢。私の夢の中にだけある優しい呼び声。
自分で作った自分のための牢獄に私は自らつながれていた。
どうにも出来ない無力な子供。これが私。

どうにも出来ないまま過ぎていく時間。

私の喉にママの手がかかる。
初めて聞いた気がするママの声。
「私と死んでちょうだい。」

うれしかった。
初めてママは私の事を見てくれた。
首に食い込んでいくママの細くて白い指。
息が詰まる。
咳き込むのをこらえる。
気が遠くなっていく。

私は微笑みながらママの目を見上げた。
そのママの目は、私を見ていなかった。
何か別のものを写していた。
涙が、いきなり私の目から吹き出してきた。

ママは私を見てはくれない。
どんなに呼んでも。どんなに想っても。世界が消えても。私が死んでも。

「ママ!私を殺さないで!」

私は必死に叫んだ。


ママは不意に私の首から手を放した。

げほげほと激しく咳き込む私。

ママを見上げると、ママは窓際に立っていた。
月の光の中に銀色に輝きながら立っていた。
美しい冷たい横顔。
それは、私にそっくりな横顔。


いまでも思い出す。そしてその度に思う。


私はわたしじゃない。
あの時から私は、あの狂気に囚われていたママの殺した骸。
私の魂は今もママの狂気に寄り添っているのかもしれない。
あのまま、あの銀色に輝く部屋の中で。




私を愛してくれないママと、一緒に暮らしているのではないかと。









Mar/9/2000

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