アスカとシンジ「海に行こうよ」




サードインパクトの後。




はっと気がつくと僕は砂浜・・・ではなくて、今にもバラバラになりそうなイカダに乗って海を漂っていた。

いったいどのくらい漂っていたのだろう。顔の半面が日に焼けてひりひりする。横を見るとアスカが包帯だらけの

かっこうで倒れていた。一瞬びっくりしたが、耳を近づけるとすーすーと穏やかに寝息を立てていたので安心する。

暗い気持ちになりたくてもなれそうもない真っ青に晴れ渡った、高い高い空。

どこまでも続く輝く青い海。真っ白な入道雲がもくもくと立ち上がっている。


とにかく一応アスカを起こす事にした。あとの事を考えると起こした方がいい。どんないちゃもんをつけられるか、

わかったもんじゃないから。アスカの肩を掴んでゆさゆさと揺さ振った。


「アスカ、アスカ起きて。おーい、アスカさーん。」


長いまつげの目がゆっくり開いて行き、中から今日の高い空のような真っ青な sky Blue の瞳が現れた。


「ここ、どこ。・・・海の上?なんで・・・。」


そしてじりじりと照り付ける太陽を目を細めて眺め、その陽射しをいっぱいに浴びている事を次第に認識して行く。


「きゃああああああああっ!!」


自分がどこでどうなっているかをやっと把握したとたんにアスカは叫んだ。耳がキーンとした。まるで音響爆弾だ。


「何でさっさと起こさないのよおっ!!この馬鹿シンジッ!!」


ほらきた。一体何を言うつもりだろう、うちのお姫様は。


「しょうがないだろっ!僕だってほんの3分前まで気を失ってたんだからっ!!」


アスカは急いで顔の包帯をはずし始めた。なんだ、どこも怪我してるわけじゃないのか。誰が何のために巻いたんだろ。


「シンジ、ちょっと見てよ。変になってない?」

「え?」


みるとアスカの顔は包帯が巻いてあったところだけ白くぬけて、紅白のまだらになっている。


「ぷぷぷっ!」


我慢しようとしたけど思わず吹き出してしまった。アスカの顔がカーっと真っ赤に染まった。


「ひ、ひどいじゃないっ!笑うなんてっ!」

「い、いや。今はわからなくなったよ。赤くなったから。」

「それでフォローしたつもりかいっ! このっ。」


アスカのこぶしが、僕の目の前にアップになって迫った。


すぱこーん!!


青い空と白い雲が目の前でひっくり返った。ぐ、ぐーでなぐったぁ〜〜。(T-T)


「し、シンジが悪いんだからねっ。」

「アスカァ〜、ひどいよお・・・。」


照れたように、にやりと笑ったアスカのお尻に矢印型のしっぽが見えたような気がする。


「しっかし、あついわねえ。シンジッ!あんたプラグスーツ脱ぎなさい。」

「え、こ、これ脱いだら裸だよ。」

「サポーターくらいつけてるでしょ。」

「そのくらいは・・・。」

「じゃあ、さっさと脱ぐっ。私が真っ赤に火ぶくれしても良いの?」

「僕はいいのかよ。」

「なにいってんのあんた!白人の方が紫外線に弱いんだからねっ。スーツが赤い分暑いのよっ。」

「アスカは混血じゃないか。けっこうメラニン色素だってあるよ、きっと。」

「何いってんのよ!この肌のどこに、色がついてるって言うのよ!」


言うが早いか、アスカは胸元のチャックを引き降ろした。真っ白な雪のような肌が僕の目に飛び込んできた。

豊かな膨らみがスーツの両胸から溢れ出して真ん中から見えそうになっている。


「ふふん、どう?どこかに色がついてるっての?よくみてごらん、へへへんっだ。」


言われなくても、僕の目はそこに吸い付けられてしまって目が離せなくなってしまった。

あまつさえ僕の脚は勝手にアスカに向かってにじり寄って行こうとしている。ま、まずいよ、・・・まずいけど。

じりじりとアスカに近寄る僕。流石のアスカもちょっとやりすぎたと思ったのか、少し顔が青ざめてる。


「な、なによシンジ。こっちこないでよ。変な目しないでよ!!こっちくるなぁっ!!」

「アスカ、奇麗だよ。とってもきれいだ・・・。」


うわごとのようにつぶやく。そして、僕の手がアスカの胸に伸びる。その手を必死で払い除けるアスカ。


「やだっ、こっちくるなっ、いやあ、こないでよお。シンジィ〜。来ないでよぉ、お願い〜。」

「アスカ、じっとして・・・。逃げないで。」


涙ぐんで手を払うけど、とうとうイカダの片隅にまで追いつめられたアスカ。イカダが傾いて足元がおぼつかない。


「いやだあ〜、来ないでよお〜、こんなのシンジじゃないよう〜。」


とうとうぽろぽろ大粒の涙が出始めた。そろそろ許してやるか、くすくす。


「すきありっ!」


どすっ !! きーーーーん!


僕は今度こそ完璧に気を失ってぶっ倒れた。




ばしゃっ、顔に水がぶっ掛けられた。しょっぱ・・・。


「ぷはっ、しょっぱいっ! あ、あれ?アスカ?」

「おなかすいた・・・・。」

「へ?」

「お腹がすいたっていってんのよ!なんとかしなさいよ!喉も渇いたわ。」

「お腹すいたってこんなとこでどうしようもないだろ。」

「あんたはねえ、さっき自分のした事分かってるんでしょうね。」

「さ、さっきのことって?」

「ほー、しらばっくれようってわけ。さっきあたしに狼藉に及ぼうとした事忘れたとは言わさないわよ。」

「あ、あれはあんまりいつもアスカが意地悪するから脅かしてやろうと思って・・・。」


気がつくと、僕はプラグスーツの上半身を脱がされていて肩袖で腕を縛られていた。引き裂かれたプラグスーツの

胴体はアスカのサンバイザー代りに彼女の頭を覆っている。


「でも、このままじゃどうしようもによ。さっき騙したのは謝るから手を解いてよ。」

「ほんとに信用していいんでしょうねー。」


よほど懲りたみたいで、何回も確認される。これであんまり大胆に挑発しなくなってくれると良いんだけど。

こっちだって健康な男子なんだから、あまり刺激しないで欲しいんだよね。ただでさえ我慢するのは辛いんだから。

アスカは可愛い。奇麗で、かっこよくて、ここだけの話僕は彼女が大好きだ。だけど相手に何かしてもらえないのも

十分分かってるつもりだ。なのにアスカは僕にしょっちゅうちょっかいをかけてくる。同じ部屋に住んでいるから退屈

しのぎに丁度いいんだろうけど、結構、傷ついてついているんだよ。

ぶつぶついいながらやっとアスカは手を解いてくれた。


「冗談じゃないわよ・・・。こんなムードのないとこでなんか・・・。」


さてどうしようかな。塩水でもほんの少しずつなら飲める事は知ってるけど。真水をどこから手に入れよう。

僕の手を縛っていた片方の袖は・・・。このプラグスーツは5層構造になっていたはず。一番外側のゴアテックス層を

剥がし内側の接続層、断熱保温層を丁寧にはがすと、通水層だけが残る。スーツの中に数本使われているフレーム。

この腕の袋を固定する丸い枠が欲しいな。僕がなにをやっているのか興味津々で覗き込んでいるアスカの顔を見上げる。

アスカの胸を指差して僕は言った。


「ねえ、アスカもプラグスーツ脱いでくれないかな。それ。欲しいんだけど。」




「ひどいや。何も聞かないうちに殴るなんて。」

「だ、だから悪かったってば。男が小さい事でぶつぶついわない。ね?ね?」

「いいけどさ。乱暴過ぎるんだよな、かわいい顔してるくせに。ぶつぶつ。」


目の周りにきっとあざがあるだろうな。今度のグーは前より力入ってたもんな。そんな事を思いながら作業を続けた。

アスカのプラグスーツの胸の内側に入っているカップのフレームはちょうど良いサイズだった。

(これをアスカが取る間、僕は厳重に目隠しをされて、再び後ろ手に縛り上げられてたんだよ。でも彼女がスーツを脱いで行く音や、

ふっと風にまぎれて僕の鼻に届いた彼女の匂いとか、反って妄想が広がっちゃってとっても辛かった。男なら分かるよね。)

これで僕の腕の形の採集ネットが出来上がった。包帯をよって三つ編みにしてイカダから流す。これでよし。


「これで何がとれるの?魚?」

「まさかね。ほんの小魚くらいは取れるかもしれないけど、大体はプランクトンだよ。」

「プランクトン?そんなもの何になるの?」

「まあ、まっていなよ。少し寝てようか。時間かかるし。」


僕らは疲れきっていた。転がり落ちない様にお互いの身体をさっきの三つ編み包帯でつなぎあってイカダの端と端で眠った。

そして夕方の陽射しになったころ僕は目を醒ました。さっそく採集ネットを引き寄せる。運の良い事にイカが一匹中に嵌まっていた。

そいつを手早くひっくり返して頭と脚をはずす。プランクトンはかなりの量が確保されていた。意外と陸地は近いのかもしれない。

そいつを手に掬うと口の上でぎゅっと握り潰す。薄い塩味がしたが、ほとんど真水と言っても良い汁が口中に広がる。

このくらいだったらアスカにも飲めそうだ。


「アスカ、こっちにおいでよ。」


さっきから不思議そうに僕を眺めているアスカに声をかける。


「目をつむって、口を開くんだ。」


素直に言われた通りに口を開いてくれる。よかった。僕がやっている事を見て、先に覚悟を決めておいてくれたみたいだ。

はっきりいって欧米の人たちには辛いかもしれないからね。出来るだけ多くのプランクトンを手に掬うと、両手で力いっぱい絞る。

やや白濁したプランクトンジュースがアスカの口の中に注ぎこまれて行く。

ごくっ。

アスカは何とか飲み下してくれた。絞り滓はそのまま僕の口の中へ。結構栄養になりそうだ。


「おもってたよりずっと楽だったわ。シンジ、ありがとう。おいしかったよ。」

「え、いや、こんなの、単なるプランクトンジュース、で。」


お礼を言ってくれるなんて思ってもいなかったので僕はどぎまぎして答えた。

イカダの古くぎを引っこ抜いてそれでさっきのイカを刺し身風に切る。プラグスーツのゴアテックに載せてアスカに食べさせた。


「これはお刺し身だから、アスカはだいじょうぶだよね。できればこっちの茶色い肝臓の部分も食べられると良いんだけど。」

「うん、あたし、塩辛だけはだめなのよ。喉を通らないの。だからシンジ食べて。」


塩辛といっても塩水をちょっと口に含んでおいて、生のキモを食べるだけなんだけどね。

塩味が薄い方が水分の補給になるから丁度いい。足は二人で分け合って食べた。

口の中に吸い付いたりして、きゃあきゃあ言いながら。久しぶりに笑ったね、アスカ。

やっぱりアスカは笑ったり、怒ったり忙しいきみが一番アスカらしいと思うよ。僕がそんな事を考えていると、彼女は言った。


「シンジ、うれしそうね。シンジはやっぱりそんなふうに優しく笑ってくれてる時が一番シンジらしいよ。」



夜になった。月の冷え冷えとした光が海と僕らを照らしていた。


星空を見ると、再び地軸が曲がってまったくでたらめになってしまったようだ。

身体中についた塩分のせいもあって、物凄く寒い。横になって丸まっていると歯がかちかちと自然に鳴っている。


「ほら、今は夜だから返してあげるわよ。お腹の方に当てておきなさいよ。」


そういうと、アスカは僕のプラグスーツの残骸をお腹にかけてくれた。

そして、背中から僕の頭の下に手を差し入れて腕枕するような格好で僕の背中にぴったりと寄り添って横になった。

空いている左手は僕の肩を包み、左足が僕の足の間に潜り込んでくる。

右足と腰はそれぞれ僕の右足と腰に押し付けられてくる。そして背中の真ん中には柔らかい優しい感触のものがあって。

僕はアスカのこの大胆な行為にびっくりして声も出ない。


「特別サービスなんだからねっ。風邪でも引かれたら困るし。ちゃんと水と食事を確保してくれたお礼よっ。」

「う、うん。わかってる。でも、ありがとう、アスカ。とても暖かいよ。」

「感謝、しなさいよ・・・。」


スーツのひんやりした感触の後から、アスカの体温が次第に伝わってくる。

それと一緒に、優しい、甘い、身体の香りと吐息が僕の首筋をくすぐる。

アスカが口を開くたびに僕の後頭部に喉の振動が伝わってくるようだ。まるで母鳥の羽根にくるまれている雛のような気持ち。

背中が暖かいって言うのがこんなにも気持ちが良いことだなんて今まで知らなかった。身体があっという間にぽかぽかしてきた。



「アスカ。」

「なによ。」

「ありがとう。」

「いいってば。ほんとはあたしも寒かったんだ。」

「背中が・・・。あったかいよ。」

「・・・・。」

「お母さんと寝てるみたいだ。」

「なに、あんたマザコンなわけ?」

「・・・・。」

「・・・ごめん。あたしってほんとに口悪いよね。」

「ううん。アスカはそうじゃなきゃ。」

「シンジ。」

「なに。」

「あのさ・・・・。・・・・。」


アスカはそれきり黙っちゃった。ぼくもそれきり口を開かなかった。

そのとき。海がきらきらと輝き出した。

僕はびっくりして跳ね起きた。アスカも飛び起きた。海が、海が輝いているんだ。

その光は、僕らのイカダのあたりからあっという間に見渡す限りの海原全体に広がって行った。


「うみほたるだ!海蛍の大群生だよ!」


ぼくは、興奮してアスカを抱き寄せながら叫んだ。


「こんなに、こんなにすごい群れなんか、まだ生きてたんだ!」


ぼくはアスカといっしょに海に手を入れた。引き抜いた手が一瞬きらきらと輝く。

細かい砂粒のようなプランクトンが光っているのだ。


「これも・・。プランクトンなんだ。シンジ、すごいね、すごいね!」

「うん、みんな生きてるんだよ。この輝きの一つ一つがみんな生きてるんだよ。」


僕とアスカは互いの腰に手を回して、光る海を眺めていた。

そして、海蛍は何回か輝き、消え、海はまたもとのような闇に戻り白い波頭が時たま見えるばかり。





僕は、いままでずっと言い出せなかった事をアスカに尋ねてみようという気になっていた。


「アスカ。僕の事憎んでない・・・。あの時・・・僕が間に合わなかったこと。」


「・・・・ないでしょ。」


アスカの身体が震えていた。


「憎んでないわけないでしょ。」


僕の身体は固まった。やっぱりそうか。アスカは僕を憎んでいるんだ・・・。

アスカは、言葉を次いで静かに言った。


「だからどうだっていうのよ。大事なのはあたしがあんたを憎んでるって事なの?そこであんたはまた逃げ出しちゃうわけ?」

「だって、アスカが・・・・。」

「私はあんたの事憎んでるわ。私が一番いて欲しい時にあんたはあたしをを見捨てた。憎まれて当たり前だと思わないの?」

「・・・・・。」

「それでもあたしがあんたをにっこり笑って受け入れてくれないかって思ってるの?おかしくない、それって。」


アスカは僕の両肩を掴んだ。肩を思い切り握られた。


「あたしが重病で寝込んででもいれば、横に付き添って自分の心を伝えられるのにとか甘ったるい事を考えていない?」


アスカの目がきらきらと輝いて僕を激しく突き刺す。


「でも、あたしは、あんたのお人形じゃない。誰のお人形でもない。誰かに可愛がられているだけの人形じゃないのよ。」


アスカの目から涙が吹き零れ、きらきらと輝いた。


「あんたはあんたでアタシに求めればいい。仕方がなかったのなら胸を張って私を求めればいい!誰にも言えないほどに卑怯

だったのならおずおずと求めればいい!あたしの心は、その答えはあたしが決めるのっ。あんたが決めるんじゃないのよっ!」


僕の身体がぐらぐらと揺さぶられた。


「ここには、2人だけしかいないんだよ。誰の事も気にしなくていい。今までの事も、これからの事も考えなくていい。

この、今の瞬間のことを考えてよ!わたしを見て!わたしだけを見て!わたしの事だけを考えてっ!!」


アスカの頬を伝って流れた涙は、彼女のあごに溜まり、そこで滴って、赤いプラグスーツの胸にしたたり落ちた。

僕は、おずおずと手を上げたそして、ゆっくりとアスカの腰を手繰り寄せ、背中に手を回した。アスカの身体は温かかった。


「僕は・・・どうしようもないくらい馬鹿で、卑怯で、弱い。でも君が好きだ。太陽のように輝いている君が。

そして、いつまでも君といたい。だから約束するよ、必ず強くなってみせる。君がいてくれれば僕は強くなれる。きっと。

まだ、時間がかかると思う。でも、必ず君につりあう男になってみせる。だから、だから、僕が君を好きでいる事を許して欲しい。」


僕はまるでアスカに懺悔するように言った。自分の顔が涙ででびしょびしょに濡れているのもわかっていた。

最低のプロポーズだと思った。でもそれが今の自分だった。これが今の碇シンジだった。


「かっこわるいね。」


アスカは頬を光らせて笑った。


「うん、かっこわるいんだ。最低だよね。」


僕も笑った。笑った後、アスカの答えを待ってじっと彼女の瞳を見詰めた。


「ばかなやつ。でも、こんな馬鹿で、小心で情けないやつが最後までわたしのそばにいてくれたんだよね。わかってる?

あんたの他に誰があたしの事を守るために飛び出してきてくれたというの?シンジ。その事に気づいてる?」

「アスカ。もっと早くいかなきゃいけなかったんだ。あんなにむごい目に君を会わせる前に。ごめんよ。ごめん・・・。」



「あたし、シンジが好きだよ。ずっとあんたの事が好きだったんだとおもう。」



信じられなかった。僕は耳を疑った。

こんなぼくのことを・・・、アスカが好きだって?夢なんじゃないかと思って、僕は腕に力を込めてアスカを抱き寄せた。

アスカのきゃしゃな身体が、軽々と僕の腕の中に引き寄せられて来た。


「アスカ・・・、キスしていい?」

「ばか。」


そういうとアスカは目を閉じて心持ち顔を上にあげてくれた。

僕はアスカに顔を寄せた。自分の体が震えているのが分かる。アスカの後頭部に手のひらを当てて引き寄せる。

アスカの目の下に僕の唇が当たった。次に唇の横に。

そして最後にやっとアスカの花びらのような唇にたどり着いた。

アスカの細い腕がぼくの首に絡み付くように回されて、ぼくはアスカの方に引き寄せられた。

長い、長い、くちづけが続いた。

いつのまにか僕はアスカが弓なりになるほど、強く、強く抱きしめていた。

身体のそこから力が湧き上がってくるような、そんなくちづけ。

アスカの唇がひらいた。まぶたがうっすらと開いて、濡れた美しい瞳が輝いている。

そのくちびるが声を出さずにつぶやいた。それに僕は声をはっきりと出して答えた。



「あいしてる・・。」


「愛してる・・・。」



再び、僕らの周囲の海が輝いた。その光は見る間に輝きを増しながら筏を、僕らを、海をつつんでいった。












次の日。


浜辺にぼろぼろの筏が打ち寄せられていた。

そこから、二人分の足跡が浜辺に沿ってずっと続いていた。

その足跡はまっすぐ街に向かっており、どこまでも平行に続いていた。





人の世には幾つものラインが引かれている。

そのラインは時に平行になり、時に交差し、時に絡まり合いながら再びまた離れて行く。

そして2度と交わる事なく地平の彼方にそれぞれが消えていく。

しかし中にはいつまでも離れないまま交差し、絡み合いながらどこまでもどこまでも同じ方向に伸びて行く2本の線がある。

そのラインは長い間には融合し、一本の直線となって同じ地平の彼方を目指す。






「アスカ!」

「シンジ!」




見交わした、青い瞳と、黒い瞳。

見詰め合ったあとの照れくささから二人は笑い出す。





「あ、あはははははは!ははは!」

「ふ、ふふふふ、あははははは!」












歩きつづける二人、走り出した二人。その手はしっかりと握られていた。














アスカとシンジ「海に行こうよ」終



あとがき:



アスカ:ちょっと照れくさい話だったわね
シンジ:でも、今の僕らには懐かしい思い出だよね。
アスカ:ちょ、ちょっと。フィクションってことになってるんですからね。
シンジ:そうなの?なんかすごく力はいちゃったよ。あの時のアスカの言葉がなかったら。
アスカ:ま、いまでもよわよわシンジだったかもねえ。
シンジ:だから、今の僕はアスカに作られたようなものなんだ。
アスカ:わたしだって・・・。シンジのあの時の自分の弱さを認める強さに・・・。私いまでもだめかも。
シンジ:なにが?
アスカ:自分の弱さ、自分のいやなとこを素直に認める強さ、ないもの。
シンジ:だからこうしてずっと一緒にいるんじゃないか。アスカこそ僕の弱さを受け入れてくれる広さがあるよ。
アスカ:シンジ。ありがとう。
シンジ:アスカ今もこの時と変わらず愛してるよ。これからも。
アスカ:シンジ・・・・。

こめ:あの〜〜。
マコト:これはコメントは無理だよね。またにしようよ。

コメドコロ/マコト:それでは皆様。最後まで読んでいただきありがとうございました。



http://www.roboken.esys.tsukuba.ac.jp/~nao/v_hilgen/index.html (海蛍・参照)


Mar/19/2000

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