ドイツにて−あらすじ

サードインパクト終了後、浜辺で気が付いたアスカとシンジ。
シンジの努力にもかかわらず多くの人々は心地よい群体の世界から戻ってこなかった。
最後の戦いでシンジが自分を見捨てたと思い込んでいるアスカは一人、シンジを置き去りにしてネルフ本部に戻る。
しかしそこでアスカが見たものは凄惨な大殺戮の跡であった。全ての拠り所をなくしたアスカはシンジの懸命の制止を振り切り、
ドイツの養父母のもとに帰る決心をする。だがそこに父母の姿はなかった。父母もまたあちら側の世界から帰ってこなかったのだ。
それでも故郷で新しい生活送るための一歩を踏み出すアスカ。其の道は平坦ではなかったが、隣家の少女クリーネとその家族との
交流を通し少しづつ心を開いていく。だが軍事都市の恵まれた環境で育ったアスカには想いもよらない生きるためだけの厳しい状況が
アスカを取り囲む。その中で慣れない農作業や医薬品の供給ルートの確保など、必死の努力を続けるのだった。
冬の最悪の食料事情。満足に食事も取れないアスカであったがある日氷の池で溺れかけた村の少年を助けたことがきっかけで
村の一員としてみんなに認められるようになる。クリーネとの友情も一層強固なものになっていく。
だが冬はますます厳しさを増しついに食料が尽きた地区が次々と暴徒化し町を襲い始める。
その中で軍人であるアスカは地区軍委員会の命令により、町を守るための戦いに赴く事になる。自分でも信じられないような
戦いへの高揚感。そして自分の手で初めて人を殺すアスカ。その重圧、悲惨さ、身体の奥底にまで刷り込まれた戦闘行為への歓び、
それに対する嫌悪からアスカは激しく嘔吐する。
余りの苦しさにアスカは抑えこんでいたシンジの名をを叫び続けるのだった。


理解し合うためではない
お互いに 道連れの足音を我慢する
ちょっとした用事を足してやる
相手の希望を 目の色に 読んでやる
素晴らしい 生きがいのためや 喜びのためではない
愛の園に しんみり 抱き合うのでもない
ただ 決して疲れに負けない
互いに こんな人生を 許してやる
ゆるすときは 母親の気持ちになる
こうして 放蕩息子のように歩いていく
故郷が 見つかるかどうかは わからない
手を取り合って歩いていく たとえ相手の
青白い手が 遠い夜風に冷たくても
やはり歩いていく 最後まで歩いていく





ぼくのわがままな恋人

―ドイツにて 後編―


こめどころ



戦いの夜から2日。クリーネは久し振りにアスカの家を訪ねた。
呼び鈴を押しても反応がない。煙突から煙が出ていない。いやな予感がして、アスカの部屋に回り込んだ。
2重窓の向こうに分厚いカーテンがかかったままになっている。激しく窓を叩いたが返事がない。
何個所かの入り口を回ると、地下室への入り口が開いたままになっていた。そこから邸内に入る。
階段を上がると台所の横に出た。家畜小屋を覗くとヤギが情けない声を上げる。
桶が空っぽだ。クリーネは干し草を一抱えヤギに投げ与え、えさ袋から1カップの粒餌をまく。
ばさばさっ。
鶏が飛びつくように餌をついばみに来る。台所のストーブも火の気がなかった。流しにつけてある食器が容器ごと凍っている。
「アスカ?」
足元にくしゃくしゃになった軍服が落ちている。拳銃。散らばった弾。テーブルの上真っ赤な帽子。
呼びかけにも返事はない。東南角の庭に突き出たアスカの部屋。ドアノブをそっと回す。
「アスカ、入るわよ。」
ベッドに人の気配がある。
「アスカ? アスカどうしたの?」
布団の端をそっと持ち上げる。耳をふさいだアスカが震えていた。
「アスカ…。どうしたの。」
うっすらと目をひらく。青い瞳の焦点が霞んでいる。
「私…。どこへ行っても同じなんだ。どこへいっても…。戦いの命令が追いかけて来る。
人を殺して。自分達が生き残る為に人を殺して。みんな同じなのに、生き延びたいだけなのに、それを阻むのはいつも私。
それを歓んでいる私がいる。戦いの愉悦に浸っている私がいる・・・・。」
クリーネは、ここで育った。冬になれば戦いがある。食べる為の戦い。命を守る為の戦い。
それは辛い事ではあったが、逆に生きる為に当たり前の事でもあった。
戦う。自分を自分のコロニーを守る。共に戦うものは味方であり、攻撃してくるものは敵。
それに疑問を持った事はなかった。、アスカはその事で苦しんでいる。自分のことを怖れている。
クリーネはアスカの部屋のストーブに火をおこした。しかし台所のストーブにも。お湯を沸かし、温かいものを作り始めた。
アスカは優しい人。いくら強がっていてもこの子の心は、すぐに砕けてしまう。戦う相手を理解して悩む。
この子は、私たちとは違うんだ。…獣とは違う、前の世界の人、再びやってくる世界の人。
この子は、私が守ってあげなくては。お願い。アスカ…元気でいて…。
クリーネは、その小さなこぶしを血管が浮かぶほど固く握り締めた。

冬はますますその厳しさを増していた。繰り返し、繰り返し、アスカは戦いに赴かざるを得なかった。
気温が下がるたび、雪が積もる毎に、生きるため、この集落の人々を守るために襲い掛かってくる人々を相手に必死の戦いが続く。
中央の行政府に助けを訴える。しかし、助けはやってこない。食料の絶対量が足りないのだ。年間を通してぎりぎりの量が
確保されるに過ぎない北部地区では、冬の末期はどうしても食料の尽きる地区が出てくる。その地区への支援は出せない。
政府にも手持ちの食料がないのだ。予想されている、当たり前のように繰り返される、間引き。
食料の絶対量より人口が少なくならない限り繰り返されることを、みなが知っている。
食料倉庫に毎日のように泊まり込む男たち、村の辺縁部の家が次々と焼き討ちにあう。
町の外側には飢えた山間部や、状況の悪化が激しい地区からのキャンプが町を取り巻くように出来上がる。
集結しつつある難民数は万を数える。
この町の穀物集積センターはこの地区最大のものである。守り切らなければ地区全体が飢えることになる。
町は総動員で穀倉センターを守る体制に変わった。周辺部の小さな集落は放棄され人々は町の古い城壁の中へ避難する。
穀倉センターと町の中に立てこもって春を待つ。町のそこここに立ち番の自警団員が立つ。昨夜の焼き討ちの跡。
焼けこげた柱。くすぶる煙。立ち尽くす人。焼け跡を掘り起こす人。がれきの下から発見される遺体。
それに取り縋って泣く若い母親。
その横の石畳の道。
足早に通り過ぎようとする赤いベレー帽の少女。守るように周囲を屈強な若者たちが取り巻いている。
「とうとう、城壁内に入り込むようになってきたな。」
「城壁の巡回を増やした方がいいだろうな。」
「まって、今でも巡回や張り番はやっているのよ。今の防御体制を突破してくるのは普通の人には無理なはずです。」
「どういうことだ。」
「つまり…敵側にも専門家がついたということだ。」
「立ち番は、危険性が高くなったわね。」
アスカはしばらく考える。
「城壁上の立ち番の数を今の半分にしましょう。順回は間隔を2倍に広げてください。」
二言三言、若者たちと言葉を交わす。
「穀倉センターに戻ります。」
今夜は新月。夜襲にはもってこいの夜。
この穀物集積センターには、町の主力が集まっている。古い城壁とは広い道一本でつながっている。
以前機能していた真空流体パイプは壊れてから久しい。周囲は広い草原。今は一面の雪の原である。
この雪原が不意打ちを防ぎ、最大の防壁となっている。長距離射撃の名手がセンターの建物中段の壁から一晩中雪原をにらみ、
時たまあがる照明弾と、暗視装置が見張りを固めている。スターライトスコープはアスカが使用を禁止した。
敵側から強い光を浴びせられた際のダメージが致命的なものになる可能性が高いからだ。この防御は人間だけでは崩せない。
アスカは思う。しかし、攻撃は執拗に繰り返される。毎晩、毎晩、そして、一方的な殺戮。
夜が明ける。アスカたち自警団のメンバーは、戦場確認のため完全射程内で視察をする。
「昨夜は、一層ひどかったな。」
「彼らだって必死さ。飢え死にたくはないからな。」
最低限の食料がここから難民に配給されている。いっそのこと全て廃止してしまえばいいのだという声もある。
しかし、それをしたらどうなるか。射程距離ぎりぎりまで難民がやってくれば打ち払う。厳然とした2000mの距離。
「なんだこれは。」
驚きの声が走る。射殺された死体を起こした者が思わず叫んだのだ。
昨夜の攻撃部隊の半数近くが、13,4歳の子供たちだったのだ。
「こいつも、こいつも…。」
「ひでえ…。」
固く凍り付いた少年たちの遺体は申し合わせたように、古い、射程の短い猟銃を持っている。
「女の子もいるぞ。」
アスカの顔から血の気が引いている。まちがいない。敵側には戦術のプロがついた。
それも、ゲリラ戦から拠点防衛まで、仕官クラスの戦術訓練をみっちり受けた者が。
勝ち残るためだけの思考から編み出される戦術を躊躇いなく使う。
このやり方は、防御側に高い精神的ダメージを与えるためのやり方だ。
その確認のために町の防壁の防御をゆるめた。緩めたとたん、侵入はとまった。夜間狙撃部隊の配置可能性を慮ったのだ。
直接的な攻撃ができなければ、間接的に心理攻撃をかけてくる。子供を殺したという精神的圧迫。
反面、自軍の士気は非常に高くなる、少年兵員の活用効果。攻撃力にほとんど影響は与えない、いわば最も効果的な捨て駒である。
そこまでやれる人間が敵側についた…。
「このことを、絶対に漏らさないこと。いいですね。」
アスカは蒼白のまま言った。
「漏れれば、私たちは、負けます。」
きひゅんっ!
風を切り裂いて頬すれすれのところを弾丸が通り過ぎる。熱気が走って頬が裂ける。
ズダアアアアンンン―――ンン
長く尾を引いて、狙撃銃の音が雪原に響く。頬に走る弾痕状の傷。とっさに押さえた手から血が滲み出す。
アスカを周囲の青年たちが取り囲む。
「ジープにもどれっ!」
そのまま、数人が腰だめに自動小銃をうちまくる。アスカを守る集団が複合金属の盾を上げながら車にそのまま突進する。
「だめっ、全員戻りなさいっ、囲まれるわよっ。」
ズダアアアアンンン―――ンン
必死で叫ぶアスカ。自分の後ろを走っていた青年が後頭部を撃ち砕かれて倒れる。
車の向こう側に何か動くものがある。白く塗った銃の筒先を上げようとしている。敵っ!
とっさに拳銃を引き抜いて引き金を引いていた。
パン!
乾いた音。眉間に穴をうがたれた少女。瞬間、目を見開くアスカ。自分と同じ年頃の、澄んだ青い瞳の娘。
自分を撃ったかのように凍り付くアスカ。自動小銃を構えた横を走る青年が一連射を加える。
アスカの心臓が、わしづかみにされたように悲鳴を上げる。
真っ白な迷彩服が、真っ赤な血しぶきを上げながらびくびくと跳ね上がり、倒れた。
一群の真っ白な部隊が何十人か、地から湧きあがり射撃を浴びせてくる。
たちまちアスカの周りの青年たちは血染めになる。それでもアスカをジープに押し込み、発進させる。
運転手以外が残って交戦を続けている。数台の戦闘用ジープがセンターから飛び出してくる。重機関銃が撃ちまくられる。
センターから、直接射撃が始まる。
完全に私のミスだ。警戒が甘かった。
アスカは唇から血が流れるほど口を噛んでいた。
習慣のまま、戦闘後の視察を行うなんて。明日だったらやっていなかった。もう、戦闘のプロがいることが分かったから。
少年兵も、城壁内の焼き討ちも、全て私をここで殺そうという明確な意思。最初の、そして最後のチャンスに賭けて来た。
城壁の防御を突破された私が、最初の夜襲を不安に思いセンターに移ること、そして何らかの手がかりを求めて前線視察を行うだろうと、
読まれていた。
少年や少女の死体を見て衝撃から無防備になる一瞬を伏兵で衝く。
今まで、戦闘は夜にしか仕掛けられなかった。攻撃力に私たちの方が勝ることを知っていたから。
が、これからは違う。わずかでもチャンスがあれば、間隙を衝かれる。
撃った瞬間の引き金の感触がよみがえる。一瞬に交した瞳と瞳の間の時間。
自分をかばって撃たれながら、車に押し込んでくれた大きな手の感触を思い出す。

みんなごめん。ごめん…。


「この俺が、外すとはな。」
掩蔽のなかで、無精ひげをさすりながら狙撃手はため息をついた。
「極寒の中でスコープの照準がずれていたのではない?」
同じく、第2射目を護衛の青年の身体に阻まれた黒髪の狙撃手が言う。
「そうだな。だが懐に入れておくわけにもいかんだろう。出したとたんに凍っちまう。」
「旧世界の電気式保温システムなど望めないからね。」
「ま。またチャンスはある。と、幹部には言っておくか。」
しかし二度とチャンスはあるまい…と狙撃手は思った。無線機を手に取りあげる。
「カッツェ1から5、引き上げだ。6、7は引き続き警戒に当たれ。」
どこまでも続く白い平原。再び雪が激しく舞い始める。



2月。後一ヶ月。一ヶ月持てば、残った食料を難民に残らず放出しても春作物が南欧からやってくる。
しかし、裏返せば、最も苦しいのがこの一ヶ月。センターを擁するこの町ですら、一日の配給はわずかパン数枚である。
歯茎からの出血が止まらない患者が出る。昔の楽しみだった小芋をすりつぶし葱をきざんで作るポタージュがあれば、
誰もかからない病気である。難民キャンプでは、こんな病気で何人もが死んでいく。ジャガイモの粉が一日何十gか、
ブタの脂身、ライムギのパンが一人一枚。最低限の燃料。飲料水が4人家族に2リットル。小麦粉が10日に1kg。
全身を包む防寒ラミネートアルミが一人2枚。こんな最悪の状況で、ある吹雪の夜、おそらくこの冬最後の攻防が始まった。
食料配給をさらに切りつめなければならなくなったのだ。
「気象衛星ノークによれば、北極圏の寒波はまったく衰えを見せていない。2月中にこの寒波は700km引くと見られていたが、
中央アジアの寒波と一体化し、マイナス80℃の勢力を維持している。北海の海水温は依然1月のレベルから上昇していない。
欧州農業食糧庁はこの事態に対しさらにオーストラリア産穀物の緊急輸入を決定。しかし30万トンの小麦については、今期冬季
食料確保が難しい状況である事が作秋予想された日本がそのほとんどを押さえており輸入も終了している。今の時点からの確保は
非常に困難であろうと関係筋は……。」
血みどろの市街戦がはじまって、今日で5日目。
センターを落とせないことが分かっている難民側は、ついにこの城壁に囲まれた旧市街に総力で攻撃を仕掛けてきた。
ここを奪取することで少なくとも春までの食糧の確保が見込める。この城壁の中の倉庫群には、野菜やジャガイモ、
製品化された保存食物などがあるからだ。人口が減れば、自分たちへの分配量の増加が見込める。本当の食い殺し合いの局面が
とうとうやってきてしまったのだ。センター側は、まだ統制を保ち、難民を無差別に殺戮することはしていなかったが、
これ以上戦闘行為を続けるなら、郊外にとどまっている非戦闘員をナパームで焼き払うという警告をついに昨夜発していた。
町民の死者は数百人に上っていた。難民側はおそらく1000を越えていただろう。キャンプには病気も発生しつつあり、
その点はセンター側も同じだった。長く続く避難所でのストレスにより、そして冬中続いた極端なカロリー不足により、
高齢者と子供たちがばたばたと倒れていった。子供にいくらかでも食べさせようとして母親が倒れる。生い先短いものは食べない
と言いつづけて年寄りが倒れる。臨時の配給があったと偽って家族に食料をまわし、父親が倒れる。
こうして、思いやりの深いものから、順番に倒れて行く。

「これ以上の戦闘行為の延長は、この地区の無人化を招くことは誰にも分かることです。
軍基地は、いつまで沈黙を守るつもりなのか。あそこには、ここに匹敵する軍用食料の備蓄があるはずではないか。」
「介入してくれれば、少なくとも無差別殺戮に踏み出さないで済むのに。」
「医薬品もアスカ君が確保してくれた分はとうに尽きた。難民の分は先月からまったく供給すら停止だ。」
「政府は、われわれを見殺しにするつもりか、東部住民は食い殺し合って滅びろというのか。」
会議は血を吐くような叫びに満ちていた。
「アスカ君、戦況説明を。」
町長がアスカに話を振った。何もかも、もっともな話だが町長は、今日と明日を与えるのが仕事だ。
アスカとてもそれは同じだった。
「町の西門は破棄。西地区の食料貯蔵庫2棟は難民側に落ちました。現在さらに北の尖塔地区及び北地区公会堂、
北4小学校区を結ぶラインで戦闘が行われています。難民は中央教会の制圧を目指しています。」
「あの地下は弾薬が大量においてある、まずいな…。」「われわれの本部である東門地区に移動させたいところですが、
安全性の確保の点で疑問があります。移動のときが一番攻撃もしやすいので。少しずつ移動を行っていますが、一気にはちょっと。」
「男子の18歳以上戦闘可能者は総動員だ。敵側は13歳くらいの子供も戦闘に加わっている。」
この事は、隠しようのない事実となっていた。子供と思って保護しようとした町民が射殺される事件が続出していた。」
「我々もわずか16歳のアスカ君を先頭に立てて戦っているがな。」
自嘲気味に誰かがつぶやいた。
「敵も味方も子供を正面に立てて。狂っているとしか思えん。」
「倫理的評価は後になってみんなで受けるしかなかろう。我々はアスカ君なしではこの冬生き残れなかった可能性が高い。
今までの難民群はせいぜい、数百から数千。今年は万単位だ。おそらく3万からの難民が周囲を取り巻いていることだろう。
武装攻撃も30回以上あった。いつもの強盗に毛が生えたような連中とは違う。緊急避難的措置として…。」
「指揮は、プロの軍人です。攻撃がいちいち理に適い、隙がない。
今まで私たちは敵失に乗じて勝ってきましたが今回からはそうは行きません。敵の分隊レベルの動きが非常にしっかりしています。
同時複数目標攻撃を楽にこなす。もしかしたら、指揮官クラスの敵は二人いるのかもしれません。」
「はやく、この寒気だけでも退いてくれれば…南欧からの食料が例年どおり入ってきさえすれば。
しかしそれはもはや愚痴に過ぎなかった。

12日目。
郊外のキャンプはじりじりと町に近づきつつある。警告どおりのナパームの攻撃を行うことを決定。
ただし町とキャンプの中間よりやや外側に発射し、直接の被害を出さないように。
いまさらキャンプ住民の敵愾心を煽っても意味はない。多分、敵側の指導部の折り込み済みであることだろう。
予想通りキャンプ側の動揺はない。
「人的損害を防ぐため、指向性対人地雷を設置すべきです。」
「7番倉庫および、防壁内のセメント流し込みが終了。スラグ弾による壁の撃ちぬきの危険性はなくなりました。」
「敵後方に対する迫撃臼砲攻撃を開始します。」
防御力を高め手薄な地区に指向性兵器を設置し、殺傷力の高い兵器を導入する。非戦闘員への攻撃を控える反面、
当面の敵への攻撃がどんどんエスカレートしていく。攻撃兵器の少ない敵側は一般居住民へのゲリラ戦も辞さない。
攻撃が生ぬるいという声が次第に高まっていく。
「味方からの非難の声がこうも高いと嫌気がさすな。」
「しっ!一番つらいのはおれたちじゃない、アスカじゃないか。」
「まったく、たった16歳の女の子にやらせておいて文句ばかり言いやがって。」
市街戦、ゲリラ掃討が始まってから急速に死傷者が増えている。
それでもアスカ直属の自警団員で不満を漏らすものは皆無であった。
必要とあらば、自らの命と引き換えにしてでもアスカを守ってくれた。
あの雪原での急襲のときにアスカを守り切ったのも彼らの兄弟達だった。


センター側本部、町議会屋上。風が強い。

「アスカ、軍は動かないのかな。いつまで僕らに殺し合いをさせておくつもりなんだろう。」
「昨日も伝言に行ってもらってるけど、どうなったか。着いているのかしら。」
「先週までは、まだネット通信が届いたけど、今週になってからは不通だからね。」
女子隊員がアスカに駆け寄ってくる。クリーネだ。強引にアスカの直衛隊に割り込んだのだ。
アスカは身体を心配したが、クリーネは、殆ど問題ないという医師の診断書をもっていた。
「アスカ、きょうはお風呂の日よ、順番だから入って。」
「私、後でいいのに。」
「今は静かだし、今のうちの方がゆっくり入れるわ。」
「こっちは、俺達がしっかりやっておくよ。小一時間のことだ。」
「じゃあ、お願いします。」
アスカとクリーネが屋内に消える。男性達は気を引き締めて城壁の内と外に目を凝らした。


アスカは久しぶりにゆったりと湯に浸かっていた。月桂樹の葉と乾かしたオレンジの皮、
よもぎなどのハーブが大量に袋に詰められて湯船に投げ込まれている。慣れ親しんだドイツハーブの風呂のややぬるめの湯。
共同の浴場なので小さなプールくらいの大きさがある。
クリーネの、少しでもゆっくりしてほしいという、やさしい願いにアスカは久しぶりに甘えていた。
「ネルフの「SENTO」に似ているわね。それよりも、「ONSEN」かなぁ。なつかしい。」
あの時は…まだミサトがいて、火口の中であきらめかけたときに、シンジが来てくれて、帰りに硫黄の温泉に浸かっていったんだっけ。
シンジが覗こうとしたんじゃないかとか言って、ぎたぎたにやっつけてやるってからかって…。
目頭が熱くなって、アスカは浴槽の中にあわてて潜った。そしてそのまま、仰向けに手足を延ばして浮かび上がる。
ここでこうやってふわふわ浮いていると、LCLの中を思い出す。

私は待った。
誰を?
誰でもない。
迎えに来てほしかった少年はあのとき以上に、決して現われはしないのだ。

あいつは、地球の裏側にいる。
あいつは私のことを少しでも思い出すだろうか。
ここで、こんな風に私が闘っていることなんか思いもしないで、私がドイツでただ幸せに暮らしていると信じている事だろう。

幸せな夢。

使徒戦よりもさらにさらに過酷な現実。
初めて戦闘のあった夜。
自分を哀れんでシンジを求めて泣き叫んだ後、
私は決心した。

ワタシハ シナナイ
ワタシハ イツカカナラズ
アイツノトコロヘ カエル

「アスカ待ってよ。僕の話をきいてよ。」
「うるさいうるさい。あんたの言うことなんか聞きたくないっ。」
「アスカ、僕待ってるよ、君が帰ってくるのを待ってる。」
「生憎だったわね、私はどこでもいつでも一人でやっていけるわよ。あんたなんか必要ない。」

ダレカワタシヲトメテ
ワタシノクチヲオサエテ

昔の私ならあるいは平気だったのかもしれない。
かたくなに、羨望と追慫笑いを求めて勝ち誇っていた。
でも、私は知ってしまった。見返りを求めない心。家族の温もり。
あたりまえの幸せ。
無理に目を閉じて走っても、もう暗闇には帰れない。

誰が私の歪んだ魂をその腕のなかに抱きとめてくれるのか 
遥かなこの次空のなかに共に漂ってくれる魂
森閑とした暗闇の中でも輝くその優しい言葉
歪んだ心が吐き散らした悪意のあとを 
血のにじむ痛む心をあなたは招きいれてくれる
其の度に私の心があなたに囚われていく

シンジ
カエリタイ
イツデモアナタノトコロヘ

この旅が終わったなら
この戦いが終わったなら

だから決してあきらめない
あなたの所へ私はきっと帰る 
初めて 私がたどりついた場所
今だからやっとわかった     
世界が優しく変わっていったところ
私の 魂のありか わたしの旅の終わるところ
私の身体の全てが
あなたを 懐かしがっている あなたを欲している
帰りたいと 叫んでいる

シンジの笑顔
「アスカ、お風呂が入ったよ。冷たい牛乳冷蔵庫の中だからね。」
ミサトの笑顔
「ビールは私の生きがいなのよ。おねがいっ、あと一本だけ。」

『アスカ、僕待ってるよ、君が帰ってくるのを待ってる。』

幸せな夢。

暫くの間、暖かなお湯の中でまどろんでいたようだった。
ふと、アスカはそのまぶたを開き、つぶやいた。
「ばかな夢.......。」
青い瞳が、揺れた。そしてアスカは声を押し殺して、泣いた。
湯面に浮いたまま、涙がいつまでも溢れ続けた。

「もう、帰れないよ、シンジ。」
窓から見える空。日本に続く空。
「私、血まみれだもの。人殺しだもの。」




14日目。深夜。
また夜襲があった。その夜の敵はしつこかった。
難民ゲリラの攻撃は20時頃から東部門を中心に始まり、すぐに3〜4人単位に別れて多くのルートから一度に侵入を開始してきた。
拠点防衛側はより多くの人員を割かれる。アスカ自身も銃を取って戦う。市街戦には前方も後方もありはしない。

彼我の形勢は正確には夜が明けないと分からない。そしてその夜を限りに帰ってこないものは多い。
アスカの周囲は直衛に厚く守られてはいるが、それでも弾丸はかなり飛び交う。
互いの指揮系統周囲には狙撃班が配置され互いに激しくつぶし合う。
「ワッツさんの5分隊を中央教会から東浄水場へ、弾薬補給を。浄水場南側に重機関銃配置を。
バルトさんの第2分隊。南側から攻撃入れて。エルゲアさん、西21分隊6番街右翼商店街偵察を。」
続々と戦況連絡も飛び込んでくる。
「西34、ブルストです。敵移動見ゆ。ロケットランチゃー30、迫撃砲20、重機関銃10、兵100。さらに西大通りに向かい移動中。」
モニターを見ながら時々指示をおとす。さらに、30分ごとに位置を変えていく。
レスキュラと呼ばれる自動モニター監視装置による逆探知で位置が知れるのを防ぐためだ。
位置が分かれば、即座に狙撃兵に取り囲まれて集中攻撃を受ける。そうなれば10分と持ちはしない。
もちろんこちらも同じ事をしているのだが。
「アスカ、小児病院が攻撃を受けているすぐ支援に。」
頭の中で、罠だと告げる声がする。指揮系統が集中するのを見越しての施設攻撃だ。病院防護はわずか15名。
危険だという警報が頭の中でくるくると回転している。だが行かない訳にいかないならば!
アスカの頭脳が猛烈な勢いで答えを導く。
「強行突入の準備。迫兵戦よっ。重装で装甲兵員輸送車を大至急回して!」
看護婦、保母、医師、母親達までも武器を取って攻撃を防いでいるらしい。
隣接地区の50人ほどを急行させる。さらに周囲の兵力を一気に集中させ、外側に大きな包囲を作り、絞り上げていく。
装甲車数台に分乗したアスカたちが病院に着いたとたん、室内で大きな爆発が起きた。
室内で大型の手榴弾が爆発し酸素ボンベが誘爆したのだ。
真っ先に装甲車から飛び出すアスカ。紅潮した顔。きびきびとした素早い動き。
「いくわよっ!続いてっ!!4号車人員は裏庭に展開、可及的速やかに敵を掃討、脱出路を確保せよ!」
2回、3回、続けて爆発が起きる。もうもうと立ち昇る煙の中にアスカは突入した。皆がそれに必死に続き一気に3階まで駆け上がる。
ベッドがひっくり返り、点滴ビンがあちこちで粉々になり、酸素テントのシートが燃えている。
まだ酸素が吹き出しているボンベを窓から放り出す。放り出したとたんに敵の射撃が集中し、ボンベが爆発した。
「かなりの人数を集中しているわね。右翼掃射!!」
バリバリと機関銃弾が庭の茂みを薙払う。その中でアスカが大声で叫ぶ。
「非戦闘員を確保!隊形を立て直しつつ引くわよっ!」
各分隊で復唱の声。アスカの続いての指示も伝えられていく。
「みんな、患者を内側に入れつつ外の装甲輸送車に撤退だっ。」
「建物の裏側の敵を掃討しろ。大至急だ。一階についたら、スラグ弾で壁をぶち抜いて脱出せよ!」
言葉が終わらないうちに迫撃砲弾とロケットランチャーの雨が降り注いだ。
周囲の仲間達が複合金属の盾を頭上や前面にかざしてアスカをかばう。
きゅるるるるるるる。ぐわん!ぐわん!どどん!
しゅるるうるうるるうー。バッバーン!ガシャーン!
天井が落ち、壁が崩れる。窓を蹴破るように敵がなだれ込んでくる。高速弾をばらまいても、しゃにむに襲い掛かってくる。
雄叫び。憎しみに歪んだ顔。撃って撃って何人殺したかわからないままに荒れ狂う。軍靴で相手の腹を蹴り上げ、38口径を叩き込む。
着剣して槍のように機銃を振り回す。白兵戦だ。逃げ惑う患者や看護婦。血飛沫、臓物を溢れさせてのたうつ者。
肺銃創を受けごぼごぼと泡を吹きながら悶絶する少年兵。女子供かまわず発砲する敵兵。狂気の叫び。悲鳴。助けを呼ぶ声。爆発音。
「殺せ!町の連中は皆殺しだ。たらふく食っている連中を殺せ!」
「一歩も通すな!子供たちを逃がせ!」
「兵員輸送車までの道を確保しろ!1号2号装甲車裏庭に突入せよ。スモークを撃て!」
下がっていく町側の部隊を追って通路側に飛び出していくゲリラ。爆発、叫び、激しい銃撃の音が遠ざかる。
アスカは肩を撃たれて部屋の隅にかがみ込んでいた。
防弾インナーのおかげで撃ちぬかれてはいないがかなりの打撲になっているようだ。
そこに駄目押しのように対人ロケットが部屋に打ち込まれた。室内にみっしりと7mm散弾が高速ではじき出される。
奇蹟的に倒れたスキャン器材がそれを受け止めたためアスカは無事だった。
天井から、激しくスプリンクラーの水が噴き出しはじめる。窓から顔を出した数人の敵兵が対人赤外線スキャンをかける。
「掃討完了。」
スプリンクラーで体温が下がって感応しなかったらしい。気づかれなかった。ゆっくりと兵たちが室内に入って来る。

3階から2階への階段。
「みんなっ、アスカを見なかったっ。」
クリーネが叫ぶ。そこにいるものは誰もアスカを確認していない。
「まさかっ、まだあの最初のへやにっ。」
とっさに手留弾を敵に投げつける、爆発の直後、煙のなかに短機関銃を撃ちまくりながら突っ込んでいく。
あわてて後を追う男たち。煙の中で突き当たったゲリラを機関銃で殴り倒し、引きずり出されたベッドを飛び越える。
続く男たちが必死で敵兵を牽制し、援護する。クリーネはひたすら走った。
「アスカーッ!!」

掃討確認のため、部屋にゆっくり広がる兵士。アスカはつぶやく。
「ここまでかな・・・。」
そのとき、さらに正面の窓から2人の男があらわれた。
普通の軍服を着ているが、身のこなしが違う。特殊訓練を受けた者の動き。これがむこうの指揮官に違いない。
顔を上げ、どんな人間かを確認する。燃えているカーテンが、二人の横顔を映し出す。
「指揮官の身柄確保はできたか?」
「まだみたいだよ。あの赤いベレーの子、意外としぶといね。」
「ま、ここで捕まえられないとまた面倒が増えるからな。」
「なんとかなるんじゃない?簡単に捕まったんじゃつまらない。」
そう言いながら、足元でうめき声をもらした兵に銃を向けると、撃った。
バシッ。
びくん、と兵の身体が跳ねる。アスカは髪が逆立つのをはっきりと感じた。
この二人は、私の同類。血だまりに興奮し殺戮に歓喜している。
生かしておくわけにはいかない。
戦闘の中でのみ生きられる訓練を受けた、人間ではない者。例え刺し違えても、殺す。
銃に手をかける。アスカは跳ね起きて引き金を引いた。
ずきゅううううううううん!
ずきゅううううううううん!
つんざくような拳銃の発射音が、アスカの鼓膜を震わせた。血飛沫を上げて倒れる二人。
同時に敵の軽機関銃の弾幕がアスカに襲いかかる。
死が口をあけたのがみえたような気がした。誰かが覆い被さって床に突き倒す。
バリバリバリバリッ!!
死が激しい勢いで通り過ぎる。
「ク、クリーネッ。」
「ばかっ、アスカ!死ぬには早すぎるわよっ。」
その頭上わずか何センチかを再び機関銃の銃弾の群れがとおりすぎる。死にいざなう、冥宮の使者の群れ。
一瞬アスカの心をよぎっていた死への誘惑。クリーネを追って部屋に飛び込んできた兵士たちが撃ち捲る。
廊下側からも援護の銃弾が走る。たちまちアスカとクリーネは仲間の男たちに部屋の最奥部に押し込まれ、守られた。
敵の二人の指揮官が倒れたところにも数人のゲリラが駆け寄っている。
「無駄よ。この私が38口径で眉間を打ち抜いたんだもの。殺し屋同士の戦いは、これで決着がついたわね。」
アスカはつぶやいた。これで、戦闘が終わる。それが血にまみれた私への代償。
「アスカは、殺し屋なんかじゃないっ。そんな言い方はやめて。」
「・・・だって、・・・私は。」
声の震えを抑えこむ為に顎に力をこめる。それでも震えてしまう唇。
濃緑色の瞳は、アスカをじっとみつめていた。
すっと顔が近寄り、アスカは唇に温かいぬくもりを感じた。
せつないほどやすらぐ、くちづけ。アスカは思わず小さなため息をつく。
ああ、身体が溶けていくみたい。
そっと、唇が離れていく。
「大丈夫、アスカ。あなたはちっともかわってなんかいない。」
クリーネが耳元でつぶやく。アスカは子供のように頷いてクリーネの胸に顔をうずめた。
ゆっくり、背中に腕が回る。クリーネはアスカを包むように抱きしめてくれた。


翌日、難民ゲリラは一斉に町外に引き上げた。
それと入れ替わるように、アッシュプランツの第7空挺団、およびベルリン師団から第3歩兵連隊、第17機械化旅団が到着した。
まるで、どちらかの決着がつくのを待ち構えていたかのように。大量の医薬品と、食糧の配給。
何のために戦っていたのか。人々は朝食のベーコンエッグを見てつぶやく。
きのうまでは、このベーコン一枚のために人が死んだ。毎年の事ではあるが、今年はひどすぎたように思う。
もう一日はやく、軍が動いてくれたら。誰もがそう思った。
アスカは病床にいた。そこに張り付くようにつきそうクリーネ。


しだいに、雪が解け、郊外の難民キャンプが少しづつ減って行った。
しばらくぶりで自宅に戻り、片付けをする
若葉が茂り、芝生が伸びすぎなほど庭を覆っている。

「動物達は、市内の動物園にみんな集められているから。また帰ってくるわ。」
「また、バラの剪定をしなくちゃね。」
近所の家は、略奪を受けたうえに丸焼けになっているものもあった。
アスカの家は、幸運にもほとんど被害を受けていなかった。
アスカと両親の部屋もベッドの布団が丸ごとなくなっていただけだった。
もともと、食料倉庫に何も入っていなかった時点で、略奪済みの家と判断されたらしい。
しばらく誰かが入り込んで寝泊まりしていたらしく、居間にはごみが積み上げられていた。
それを袋に詰めて、よごれたカーペットといっしょに庭に穴を掘って埋める。まだ土は固い。
アスカの部屋の窓を開けて、クリーネが話し掛けてくる。
「思ったよりきれいだったね。もっと汚れてるかと思ったのに。」
瞬間、変な胸騒ぎがした。
振り返ると、クリーネが掃除機のコンセントをつなごうとしていた。
「だめえっ!つながないでっ!!」
「え?」
カチリ。
視野が真っ白になった。
気がつくと、部屋がばちばちと激しい音を立てて燃えていた。
左目の視野が真っ赤になっている。身体中にガラスの破片がぶちまけられている。
「クリーネ、クリーネッ!クリーネーッ!!」
アスカは、燃える火の中に飛び込んだ。
部屋の一番片隅に、ぼろきれのようになったクリーネが転がっていた。
「しっかり、しかっりして、クリーネッ!」
「アスカ・・・。」
「いま、いますぐ人が来るからね。だいじょうぶ、助かるからっ。」
必死で叫ぶアスカ。見る見るうちにアスカの服が真っ赤に染まっていく。
クリーネにはもう自分の体の感覚がまったく失われたことが分かっていた。
「アスカ、約束して。」
「な、なにっ!?」
「あなたは、ここにいちゃいけない・・・。日本に、日本に帰りなさい。」
「何、言ってんのよ!」
「アスカと、行きたかったな。シンジ゙君と会ってみたかった。アスカの好きな子と。」
「あんなやつっ!」
「そういってるの、アスカだけなんでしょ。」
「わかった、認めるからもうしゃべらないで、血が、ああ血が。」
クリーネはかろうじて動く右手を、アスカの頬に当てた。
「日本に、帰るのよ。約束して。」
「う、うん。だから、だから死なないで、死なないでクリーネ、あなたがいなくなったら私どうすればいいのよ。
お願い、死なないで、死なないでクリーネエッ!!」
アスカの言葉が叫びに変わり、クリーネの手がアスカの頬から滑り落ちていく。真っ赤な血で染まった指の跡が頬に残る。
濃緑色の瞳に霞がかかっていき、瞼が閉じようとする。身体がみるみる冷たくなっていくのがアスカの腕に伝わってくる。
「にほ、ん、に・・・。」
「クリーネッ、いやだ、クリーネッいやだあっ、死なないでようっ!!わああ、わあああああっ!!」
アスカの叫び声が、響く。半狂乱になって頭を振る。人々が、駆け寄ってくる。通りを大勢の人たちが走ってくる。
激しい炎の中から、アスカと、クリーネが引き摺り出される。クリーネにしがみついて離れないアスカ。
気の毒そうにうつむく村人達。






冬が、終わった。







ドイツにて後編、をお届けいたします。書いていてすごく苦しかった。もっとさらっと書けばよかったと思います。
epilogue「終章」を書いてドイツ編はおしまいにする予定です。
<こめどころ>


こめどころさん。投稿ありがとうございます。

必至に戦うことしか出来ないアスカ様・・・・

人を人として見たら駄目。ただの的として捉える・・・・それが戦争・・・

日本であれだけ辛い戦いをして来た後にまだそれに捕らわれてる。いや、捕らわれざろう得ない状況・・・・

その中で思い出した優しい男の子とちょっとずぼらな保護者の顔。

ほんのちょっとだけ幸せだったあの頃の事・・・

絶体絶命のピンチ。そして、死への誘惑・・・

でも、一人だけ・・・たった一人だけアスカを死の縁から呼び戻した少女・・・クリーネ・・・

クリーネがアスカしてあげたキスは多分、母親の様なモノでしょうね。

幼い子供を守る母親の様な・・・

そして、そのクリーネも爆弾テロに・・・・(T_T)

辛いお話です・・・

 

こめどころさん、Epilogueでは一発逆転を狙って下さいね。

じゃないと散っていったクリーネの命が〜(T_T)

 

皆さんこめどころさんへ感想をお送りしましょう。

萌える作品しか置いていない太(いぬ?)へ辛いお話を下さった訳を考えながら・・・・

 

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この作品は、もきゅうさんのWebサイト、太(いぬ?)に投稿したものを、公開サイトを当サイトに変更したものです。

コメントはもきゅうさんが公開当初につけていただいた物です。

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