気がつくと、部屋がばちばちと激しい音を立てて燃えていた。
左目の視野が真っ赤になっている。身体中にガラスの破片がぶちまけられている。

「クリーネ、クリーネッ!クリーネーッ!!」

アスカは、燃える火の中に飛び込んだ。
部屋の一番片隅に、ぼろきれのようになったクリーネが転がっていた。

「しっかり、しかっりして、クリーネッ!」
「アスカ・・・。」
「いま、いますぐ人が来るからね。だいじょうぶ、助かるからっ。」

必死で叫ぶアスカ。見る見るうちにアスカの服が真っ赤に染まっていく。
クリーネにはもう自分の体の感覚がまったく失われたことが分かっていた。

「アスカ、約束して。」
「な、なにっ!?」
「あなたは、ここにいちゃいけない・・・。日本に、日本に帰りなさい。」
「何、言ってんのよ!」
「アスカと、行きたかったな。シンジ゙君と会ってみたかった。アスカの好きな子と。」
「わかったから、もうしゃべらないで、血が、ああ血が。」

クリーネはかろうじて動く右手を、アスカの頬に当てた。

「日本に、帰るのよ。約束して。」
「う、うん。だから、だから死なないで、死なないでクリーネ、あなたがいなくなったら私どうすればいいのよ。
お願い、死なないで、死なないでクリーネエッ!!」

アスカの言葉が叫びに変わり、クリーネの手がアスカの頬から滑り落ちていく。真っ赤な血で染まった指の跡が頬に残る。
濃緑色の瞳に霞がかかっていき、瞼が閉じようとする。身体がみるみる冷たくなっていくのがアスカの腕に伝わってくる。

「にほ、ん、に・・・。」
「クリーネッ、いやだ、クリーネッいやだあっ、死なないでようっ!!わああ、わあああああっ!!」

アスカの叫び声が、響く。半狂乱になって頭を振る。人々が、駆け寄ってくる。通りを大勢の人たちが走ってくる。
激しい炎の中から、アスカと、クリーネが引き摺り出される。クリーネにしがみついて離れないアスカ。

気の毒そうにうつむく村人達。





冬が、終わった。






ツヴァンツィッヒブルグ駐留軍からの報告

結語

ドイツ東部地区では、今冬期食料の絶望的不足状況から旧ポーランド系住民とドイツ系住民の間で激しい戦闘が行われた。
戦闘による死亡者はポーランド系2878人、ドイツ系1008人である。此の一帯はもともと地味に乏しく効果的増収策が効を
奏さないうえ、寒冷の被害を受けやすく今後も度々同様の状況が現出することが容易に想像できる。この際此の寒冷地区
からドイツ系住民を移住させることにより、人手が不足している南部地区富栄養耕作地にこれらを移住させ社会全体の
農業生産高を増加させる事が合理的であると信ずるところである。東部地区は耕作中止放棄を行った上、閉鎖地区に
指定すべきである。移動人数、該当地区、概算必要予算は以下の通りである・・・。




ベルリンニューポスト紙

論説

第38回中央行政委員会で発表された東部地区での今冬起った武装暴動、
抗争についての現地駐留軍からの報告を元に討議された勧告について: 

言うまでもなく、この報告書には作為的な誤りがある。民族的対立などもともとこの地区にはなかった。旧プロイセン地区は
もともとポーランド系の住民は多くない。その隣接地区も同様である。ヨーロッパの国境がなくなって以来いくらかの転出転入は
あったが個人的レベルにとどまるものであり、今回ははっきりとドイツ人住民同士の食料分配にかかわる緊急避難的とも
言える争いであった。それもぎりぎりのところで無差別抗争には至らずにすんだ。寒冷の被害を受けやすいのは事実であるが
それは耐寒植物種子の配給がなされていないことにも大きな原因があった。むしろ問題は軍権の対応の遅れ、ひいては政府の
対応のまずさ、生活レベルを落としたくない為、既得権を手放さない大都市のエゴとそれを許す大票田選出議員の横車が被害を
大きくしたのは明らかである。これらの事実を無視、隠蔽したい勢力の意向がこの発表には現われているといえよう。
また、この抗争が利権を守るために前もって準備され、抗争が激化するように方向づけられていた事も調査確認済みの事実である。
後方撹乱専門工作員が送り込まれ、それに対抗する要員も準備されていた事も確認された。この許すべからざる隠蔽工作に対し
政府は大規模な調査団派遣を受け入れた。地方政府の中にはこれに対する反発も予想されるが丹念に今回の対立の経過を立証
していきさえすれば、自ずと何が行われていたかが明らかにされる。<以下略









・・・・・・「言っとくけれどそれ以上クリーネを侮辱したらどうなるか考えた方がいいわよ。」

「あんたがリンチにかかる可能性が高いときにもう死んでしまった友達の心配かね。」


・・・・・・「その場でリンチがはじまってしまったら手を出せない。」

「あなたを敬愛する自警団の皆さんが、そのような目に遭う事を考えた事がありますかな。」


悪意の嘲笑が部屋の中を低く這うように広がっていった・・・・・・。












ぼくのわがままな恋人
―ドイツにて 終章―












再び夏がめぐってきていた。アスカは一日の終わりには必ずクリーネの所に立ち寄る。


あの爆弾テロのあと、アスカは再び入院した。形成手術の発達で傷は残らなかったが、彼女自身も深い傷を負っていたからだ。

退院した時は既に春も終わり、クリーネはこの墓地に葬むられ、一家は村から何処へとも知れず去っていた。


春には、冬の間の余りにも多くの死者のために村はずれの丘を一つ共同の墓地として皆で整備した。

記念塔を建て、その丘に芝生を貼り、薔薇を植えた。皆がそこに集い、祈りをささげた。

皆が死者の若すぎる死を、不測の死を、勇気ある死を、人間としての尊厳ある死をそれぞれに悼み、朝に夕にそこを訪れた。

豪雨の日も、激しい風の日でも、人影が絶える事が無いのを彼女は知っている。


「日本の桜を見て見たい。」


いつもそう言っていたクリーネ。

日本からもってきてだいぶ大きくなった苗木は記念塔からよく見える墓地公園の真ん中に持ってきた。

自ら穴を掘り、トラックに担ぎ上げ、アスカは自分だけで植え直した。

来年は花が咲くだろうか。それともその次の年だろうか。


優しいクリーネ。ここに来る度に、まだ涙が抑えられなくなる。だめだね。

まだ私はここにいるんだよ、クリーネ。

あなたは日本に帰れっていったけど、あなたを置いて帰ったりできないじゃない。

私、ここにいるよ。あなたのそばにいることにする。

ここから見る広い平原。麦の葉が一斉に手を振っている。銀色に、金色に。

この町を、村をあなたと、そしてみんなと守ったのだもの。

大地の向こうに傾いていく夕日。この裏側に、日本に私のシンジが生きて、わたしを待っている。

私はそれでいい。それだけで、いい。

シンジ、何時の日か会えるといいね。それとも、あなたが会いに来てくれる日があるかな。

わかってくれるよね、シンジならきっと。

私はクリーネと一緒に、ここで生きていくわ。

帰れないけど、ごめんね。待っているって言ってくれたのにね。ごめん。

この村はわたしの村であり町。

みんなの守った町であり村。ツバンティッヒのこの黒い土には友達の魂が混じっているの。


クリーネ、わたしあなたのためにもがんばるからね。









夜遅く、玄関の扉が叩かれた。


警官が数人。アスカはその警官が地方軍管区の憲兵であることをすぐ見抜いた。

すぐに集会場まで来て欲しいという呼び出しであった。拒絶すれば拘束されることは目にみえていた。


「着替えなくちゃ。」

「そのままでけっこうです。」

「このまま?女性に寝間着のままで来いって言うの?ばか言わないで。」

「では、5分待ちましょう。」


急いで防弾インナーを身につけ、動きやすいジーンズとカッターシャツを着た。

ふくらはぎにホルスターを付け細いナイフを挟み、胸元に小さな22口径の拳銃を隠した。





集会所には、数十人が待ち構えていた。

意外なことに村や町の議会で穏健派で知られる人達だった。


「アスカラングレーさん。緊急にお聞きしたいことがあります。」


黙ったままアスカは肯いた。


「この新聞をお読みになっておられますか。」

「ベルリンニューポスト・・・最近部数を伸ばしている気鋭の論説委員を抱えている新聞なんですがね。」

「この辺では殆ど購読者がいませんが、昨日の一面をご覧なさい。」


渡された新聞を見ると軍と都市部議員の癒着について語られている。


「軍と大都市選出議員との癒着構造。この地区のことが最近話題になっているようでしてね。しかも我々の地区の話題が出てくる。」

「その記事の13行目をご覧なさい。『抗争が激化するように方向づけられていていた事も事実であった。後方撹乱専門工作員が送り込まれ、

それに対抗する要員も準備されていた事も確認された。この許すべからざる隠蔽工作に対して・・』この、工作員とは誰かという話なのですが・・・。」


ゆっくりと、もったいぶった手つきで書類がめくられる。


「小児病院での戦闘において倒した2名がそれであったことは疑いないという報告を議会に提出しておられますね。」

「私たちも読ませていただきました。しかし今回の論説を読むとあなたの自宅における爆発事件も3通りの見方ができるようになります。」

「まず、最初の可能性としてゲリラの報復。2番目に心ならずも一方の将として活動したあなた、軍関係者としてのあなたを抹殺しようとした。」

「そして、3番目の可能性としては、あなた自身が汚職組織に何らかの関係がありそれを知るクリーネの抹殺を図ったのではないかという事です。」


ピクリ、とアスカの眉毛が動いた。

が、黙したままのアスカに痺れを切らせ再び口を開く。


「ま、そんなことはある訳ないでしょう。クリーネは元々あなたの副官などと言う密接な関係ではなかった訳ですからね。

あなた自身の正体の事も知らず、ただひたすら友情を注ぎつづけていたのですからね。」

「あなたが特別な訓練を受けた特殊兵器搭乗員であるということ、軍との機密にかかわりのある人間であるということ。

そしてあのサードインパクトに深い関わりを持つ、恐るべきチルドレンの一人であると言う事をね・・・・。」

「ある意味、彼女は貴女にいいように利用された挙げ句、死んでいったのだ。」


その事を一体どこから聞き込んできたのか。

軍と旧ネルフの関係者以外は簡単に知る事は出来ないはずの機密を知っている事を相手はちらつかせて来た。


「あの子はあなたををただのテストパイロットだと思っていたんですからね。あなたは親友を見事に欺きつづけたわけだ。」

「そして、殺した。」

「利用するだけ利用して捨てたわけだな。」

「一般大衆はこう思う。

世界の大半を滅ぼした挙げ句この地区に災いと紛争を引き起こし、自分を信じた友人までを自分の楯にして殺したと。」

「良く考えなさい。それは反面、知らなかったということをもはや証言してくれるものも無く、一般庶民はあなたを世界の大半を滅ぼした上に、

敵の工作員と共謀し、激しい戦闘を引き起こした責任のある人間と思うだろうということですよ。」

「そして彼女に同情的な人たちは逆にクリーネに疑問を抱いていく事でしょう。」

「クリーネ自身は、本当にあなたの友人として死んだのか?あなたを戦いに導く工作員だったという可能性だったのではないかという疑問。」


初めて、アスカは話しつづける人々と目を合わせた。


「そんな風に考える人もいるでしょう。ただし言っとくけれどそれ以上クリーネを侮辱したら、あなたもどうなるか考えた方がいいわよ。」

「あんたがリンチにかかる可能性がある時にもう死んでしまった友達の心配かね。」


尋問まがいの憶測を続けていた男は薄ら笑いを浮かべて言った。隣りのジズ・アルカイド議員が口を開いた。


「その様な事態になった場合、ここの自治体警察ではあなたを守り切れない。」


心配そうな顔をしながらバソロミュンゼー議員が言った。


「少なくない住民があなたへの抗議行動に参加したりする事態を憂うるのです。」


さらに隣りの議員が引き取る。


「そう、その際あなたを支持する一派を守りきれない、などということもあるのですよ。よくある事です、」


さらにその隣りの男が訳知り顔で肯きながら言った。


「群集心理と言うものは恐ろしいものですよ。叫び声、銃、振り下ろされるハンマー、燃えあがる屋敷。」


低い声で再びアスカが答えた。


「一派とはなに。私はどんなグループとも無関係よ。」

「そんなことはない。あなたは御存知ないかもしれないが議会でも時期リーダーをあなたに、という声も高いのです。」

「私はまだ16歳よ。被選挙権もないのに。」

「あなたは名目上の党首になるだけという手もあります。まあジャンヌダルクといったところですかな。」


悪意の忍び笑いが床を這うように広がる。アスカはこの尋問会の意図を図りかねていた。


「現に穏健民族主義政党の中にはあなたをたてて一つに合体し、この地区を仕切ろうと考えておるところもあるのですよ。」

「まさか。私は日本人とのクォーターよ。民族主義とは一番縁遠いところにいる人間じゃないの。」


なぜだ、この人達は先の戦いでも反戦側にたって食料の平等分配に力を尽くしていた人達ではないか。

むしろ難民への直接攻撃を主張する人達をたしなめていたではないか。

そのために私は無駄な人殺しを強いられることなく穏健な防御作戦を主体に行うことができたのに。


「その辺はどこの政党もご都合しだいでね。英雄、アスカラングレーの名前を冠する事で得られるものは多い。

「幸い君は金髪碧眼だ。身体はいくらか小振りのようだが、なに、年と共に御婦人は変わるものだからな。」


アスカの目がギラッと光る。


「けがらわしいっ。」


その言に含まれるもののにおいを敏感に嗅ぎつけて吐き捨てるように言った。


「け、汚らわしいとは何だっ、このイエローがっ!」

「帰らせてもらうわっ!」


席を立ちあがる。


「そうはいかんのだよ。君には地方軍管区司令名で拘束命令が出ている。我々とおつきあい願うことになる。」

「我々は出来れば君と手を結びたかったのだがね。我々の同志としてね。何日か、保護させてもらうよ。」

「その間に考えも変わるかも知れん。君の考え一つで君の友人達は今迄通りの暮らしが保証されるのだよ。」


がつっと両脇から憲兵達に腕を掴まれた。


「なにするのよ!放しなさい!」

「これから先、自らの手を汚す必要も無い、安逸な日々を保証してあげようと言っているのですよ。」

「君さえ我慢すれば、テロもリンチも起きはしないのだ。君さえ黙っていればいい。同志となって沈黙を守りさえすれば。」

「決して担ぎ出されるような事さえなければいい。今迄と同じ事が繰り返されるに過ぎない。」

「真実などと言うものは存在などしない。」

「どこで誰がいつ、どのような情報を耳元でささやくかで殺される人間が決まるのだ。」

「それが、君の友人達であったり、隣人達であったり、山間部の人間であったりするに過ぎん。」

「君たち自身が、この冬中その道具として何の罪も無い子供たちを殺戮しつづけてきたではないか!」


その言葉と同時に胸元から22口径を抜き出した。そのとたん叩き落とされた。

暫く争ったが拘束逮捕の専門職には抗っても無駄であった。

アスカはナイフも奪われ、集会所から密かに自治警察の予防拘禁室に移された。

もともと精神病患者などの予防拘束にも使われる部屋なので窓もなく、防音で、自傷を防ぐために

柔らかなマットが部屋中に張り付けられている。拘留にはうってつけであった。

繰り返される尋問。誘惑。脅迫。単にアスカの理性を奪う為にだけ続けられた拘束であった。

アスカは耐えた。





「真実などと言うものは存在などしない!」


「どこで誰がいつ、どのような情報を耳元でささやくかで殺される人間が決まるのだ。」


「それが、君の友人達であったり、隣人達であったり、山間部の人間であったりするに過ぎん。」


「君たち自身が、この冬中その道具として何の罪も無い子供たちを殺戮しつづけてきたではないか!」


繰り返し繰り返し頭の中で渦を巻く呪いの言葉。その言葉が自虐的に自分をさいなむ。



毎日繰り返される拷問のような尋問。

仲間を守らないのかという圧迫感が誘惑となって、何もかも手放して悪魔の誘いに乗ってしまおうかと言う気を起こさせる。

もう何もかもから逃げ出したい。しかしそれは許されない。自分には守るべき物があるのだ。守るべき人がいるのだ。

逃げてたまるものか。必ず借りを返してやる。・・・かならず。

ともすれば限りなく落ち込んでいきそうになる心を必死になって持ち上げようとする。

だが、その分だけ泥沼に引き込もうとする力も強くなっていく。



誰か・・・・助けて・・・・。助けてよ。


どこかで聞いた台詞をアスカは呟いていた。


シンジ。あんたはずっとこんな暗闇の中で悶えていたんだね。

寂しくて、頼るものもなく、それでも回りの大人達の期待に応え、戦い、私を気にかけていたんだね。

私のように、軍務訓練を受けていたわけではない、普通の男の子が急にあんな世界に放り込まれて戦っていたんだものね。

気が狂っても不思議じゃないような、苛烈な現実とたった一人で戦っていたんだよね。

わたし、何でそんな簡単な事に気づいてあげられなかったんだろう。

クリーネが私にはいた。

あの時はシンジがいた。

何だ。いつでも誰かによりかかっていたのは、わたしだったんじゃない・・・。

ごめん、シンジ。

ごめん・・・。



なす術もなくそこで時を過ごした。一体幾日が過ぎたのだろう。一週間?10日?

寒い。寒い。寒い・・・・。身体を抱えたまま床に倒れて次の審問の時間を待つだけの毎日。


がちゃ。


ドアロックが外され、誰かが入ってきた。たしか議員の誰かの秘書であったはずだが名前が思い出せない。

頭に霞がかかったようだ。入ってきたそいつは、うつ伏せになっているアスカの髪を乱暴に掴み上げて引っ張った。

抵抗もせずにかすかにうめきを上げて上半身を持ち上げるアスカ。


「大分参っているようだな。ツバンツィッヒの英雄も薬物洗脳にはなすすべも無いか。」


酷薄な笑いを口元に浮かべると男はアスカのシャツをめくり上げた。


外から中を覗いている看守に目配せをすると看守は首を竦めて小窓をぱたんと閉めた。


「けっ、中央の大学出とかいう話だったが、たいした好き者だぜ・・・。」


「あ・・・っぅ。」


全身を貫くような痛み。

男が自分の身体を抱え上げて何かを打ち込んでいる。その痛みが全身を回ると次第に身体が温かくなっていく。

ゆったりとした暖かみが身体の末端から中央に向けて這い上がって来る。

身体が、解れていく。おもわずため息のようなものを漏らしていた。

低く抑えた声が耳に届く。


「ラングレー大尉、俺が分かるか。」


アスカがまだ正気になっていないと知った男はアスカの腕をねじり上げる。鋭い痛みが走る。


「きゃあっ!!あああっ、やめてっ!!」

「それでいい。ラングレー大尉、君の認識番号を言ってみろ。」

「NERV5350021S・・・。」

「よし。君の食事の中には薬物が混入されている。分かるか?今君に投与したのは抗精神病薬中和剤と抗BZ薬だ。」

「は、はい。あうっ!!」

「もう少ししたらここを何とか出してやる。それまで持たせろ。俺の言う事に話を合わせるんだ。いいな。」

「わかったわ・・・。手を緩めて。」


ねじり挙げた手を放しざま、男は2回、3回と横っ面を張り飛ばした。


「あうっ!!きゃあっ!!やめてっ!!」

「その調子だ。君は今日俺に陵辱された。いいな。早くシャツをはだけてズボンを脱げっ。」


思わず真っ赤になるアスカ。だが、指示通りの行動をとる。

男はズボンのベルトをカチャカチャさせながらドアを叩いた。


「看守!開けろ!」







さらに数日後、アスカは釈放された。夕暮れの自宅まで警察車両で送られ解放された。

ここ何日か投薬されたアンタゴニストのおかげで意識レベルはかなり良好なまま推移させる事ができた。

屈辱的な芝居を議員達の前でやってみせねばならなかったにせよ、自由の身となればやれる事はかなりある。

議員達はアスカがあの男に完全に屈服し、同時に協力に同意したと、いくらかの疑念は持ちながらも信じている。

その認識が続いている間に効果的な反攻を考えねばならない。それにしてもあの男は?

走り去る車を見送る。


家に入ろうとしてアスカは愕然とした。ドアや壁に一面のなぐり書きがあったからだ。

罵り、怨唆、ありとあらゆる呪いの言葉。投石で割られていないガラスは一枚もない。

ドアに張り付けられた数々のはり紙を読む。

この十数日のあいだにすっかり故郷を食い物にし戦いを扇動し、大量殺人を指揮した張本人ということになってしまったらしい。


一体何があったというのだろうか。

庭の草木は一本残らずへし折られ、父母のための十字架までが引き抜かれていた。


呆然とアスカはそれらを眺めるしかなかった。


「痛っ!」


死角から飛んできた小石がアスカのこめかみに当たった。見ると何人かの人間がこちらを睨み付けている。

もともと、根拠のないことをされて黙っていることなどできないアスカである。きっと顔を上げると大声で叫んだ。


「何だっていうのよ!はっきり言いなさいっ!」


集まっていた人々は一瞬たじろぐ。だが、後ろの方から誰かが叫んだ。


「この裏切りもの!」


その声に励まされたかのように、皆が一斉に叫び始める。


「人殺し!子供までを平気で何十人も殺しただろう!」


また、ばらばらと小石が飛んでくる。人数が次第に増えてくる。


「扇動者!皆を煽って必要の無い戦いをさせただろう!」

「おまえのせいで兄貴が死んだ。妹も死んだ!」

「虫酸が走るぞ!出て行けこのよそもの!」


ズキュウーン!
ズキュウーン!


ライフルの音が響き渡る。


「何をしている、この恩知らず共!解散しろ!家に帰るんだ!」


自警団のメンバー二人、コフツとカールが車から降りてきて発砲したのだ。

集まって罵っていた人々は、ぶつぶつ言いながら少しずつ分かれていく。


「アスカ。大丈夫か。」


駆けよってきて、アスカの傷を拭ってくれる。


「ありがとう。一体どう言うこと?ずっと拘禁されていたので訳がわからないわ。」

「こっちこそ聞きたいくらいだ、今までどこに行ってたんだ?事件がTVで問題になってからこっち、

君が逃亡中とか、連邦警察庁に逮捕されて取り調べ中とか、自白したため自宅に帰ることを許されたとか・・・。」

「私はずっと町の警察署の予防拘束室に保護されてたわよ。保護よ!」

「何だって?本当か?じゃあ、あの報道は何なんだ?」

「見ろよ、この新聞。」


わたされた新聞を見たアスカは目を剥いた。ひどい三白眼の写真に巨大な活字が踊っている。


『アスカラングレー、逮捕へ』『アスカラングレー、逃亡を図る』『アスカラングレー自白か』その下の記事にはことごとく『?』や

『ある筋によれば』、『信頼すべき情報では』、『・・・と言われている』、『・・・と言う未確認情報がある』という語尾が付いている。


「ひどい記事。第一何なのよっ、この写真はっ!」

「アスカ、写真は後にして、記事の内容を読んでくれよ。」

「とにかく、君の家は危ない。村長の家に行こう。」


ひさびさに、まともな食事をとり風呂に入ることができた。


「なるほど、私の拘留のあいだにとことん悪者にされたってわけね。」

「軍司令官はノーコメントで通してたし、町長も知らぬ存ぜぬだったぜ。」

「もともと私を指揮のために引っぱり出したのは司令官の命令書よ。町長もその時同席してたわよ。

難民ゲリラを組織したのはもともとあの地方軍管区司令だったのね。我々の前に現われた二人は工作員だったわけ。」

「なんだって?」

「聴いて。今回彼らは私を拘束して執拗に私自身とこの村を中心とした自警団メンバーの安全が保障されないという事を言っていたわ。

その見返りに要求してきた事は結局は自分達の仲間になれ、形式的にはグループのリーダーに。その実は人形になれと。」


拘束されていたあいだの屈辱に満ちた要求。

仲間になれ。そして自分達の保身に手を貸し、群集の人気を集める人形となれ。

さもなければ身の安全は保障しない。

おまえも、仲間も、死んだ友達の名誉さえも根こそぎ奪い取ってやると彼らは脅しつづけた。


「大都市に優先的に配分される食料や医薬品は、もともとそこを票田とする議員たちの圧力で決定されてるのよ。何が何でもこれを

維持したい。全国でも一番食料供給を必要としているのは、この東部地区よ。ここを何とかしたいために、ありもしない民族紛争を

でっち上げて地域対立をあおった訳よ。民族対立はなくてもカソリックと新教徒とか焚き付ける要素はあるから。それこそ一気にこの

地区の住民を強制移住させる口実をずっと探していたのよ。特に今年は食料危機が長引いたから東部地区への供給を抑えたかった。

そこで戦闘で大勢死んだということにしようと企んだわけね。返す刀で地区閉鎖も実施と。軍の利権がらみの話だから地区司令官も

一枚噛んでたんでしょうね。」


アスカはぬるくなった紅茶をぐっと飲んで話を続ける。


「ぶち込まれている間に色々考えたり理由付けをしてみたけれど、そうとしか考えられないし、疑ってみると思い当たる事がいっぱい在る。」


そう、いくらここに住んでいるとは言っても退役将校である私を担ぎ出す必要なんかないのよ。中央の状況を知らず、情報を遮断できる

この地区内に住んでいる、そんな条件にぴったりだったのよ。今になってあれほど苦しんでいた戦いの意味がはっきりと見えてきた。


「汚職議員達が噛んでいたのは、おそらく本来この地区へ回されるべき軍の緊急援助用の食料の横流しを請け負っていたのね。

戦闘が長引けば長引くほど横流しできる食料量を増やす事ができる。だから、一気に決着を付けようという主戦派の主張とは反することになる。

結果的に彼等の主張は穏健な考え方に似通ってくるわけね。」

「俺たちはまったく踊らされていたという訳か。」

「殆どの人間は穏健派、悪く言えば事なかれだから、穏健派と現行政と地区軍が組んでしまえば何も疑わないまま信じてしまうからな。」

「脅されたわ。私を助ける一派の安全を保証はできないって。変だと思っていたら結局こういう事だったのね。」

「協力が、なかなか得られなければ、拘束を延長し、その間に、アスカに罪を着せる情報を思いきりリークする。反感をこちらに集めておいて

自分たちはその間にと言う訳か。」

「その間に何をするつもりだったと思う?」

「決まっている。証拠の隠滅だ!畜生!そうはさせねえぞっ。」


ガシャーン!


窓ガラスが割れる音が2階からひびいた。奥さんの悲鳴が聞こえた。同時に村長の長男エミルが2階から駆け降りてきた。


「父さん!外に大勢が集まっているよ。銃を持ってる奴もいる。」

「もう一つある。盛んに彼らがアスカに言っていた、群集の後に隠れて抹殺を図るってやつだ。準備が済んで行動開始ってとこか!」

「洗脳したと思っていたあたしが意外と早く動き出したので、慌ててるはずよ。その分手薄な部分もあるはずだから落ち着いて行動して。」


ガシャン、ガシャーン!!


次々にガラスが割られる。投石が激しくなっていく。


「出てこいっ!裏切り者!」

「人殺しの、汚職者め!地区の面汚し!汚らわしい混血やろう!」


罵声が響く。コフツが外をカーテンの陰から覗いて毒づく。


「ばかやろう等め。踊らされやがって。」

「気を付けてっ。おそらく口封じのための工作部員も交じってる筈よ。扇動してる者もいるはず。」

「わかった、アスカどうすればいい。ここにはうちの家族4人と君等3人しかいないぞ。」


村長がライフルを手にしながら言う。


「電話線は切られているようだよ。」


受話器をたたきつけるエミル。


「村長さん、ライフルを貸して。カール、他に武器は?」

「ここに、スモークが3発ある。一応センターの武器庫に最低限のものはあるが。」


アスカは肯いた。


「いい、みんなよく聞いて。私が脱出したら味方してくれる人達と連絡を取って。

上手く行くようならもう一度連絡を入れるから、一緒に武装して町の東門に集まって。集合時間は8時間後。」


プロテクトシステムや武装を再び全身に付ける。周りを見回し、一人一人の顔を見る。


「状況が変化した時、中止のときはコフツのパソコンにメールを流すわ。暗号コードは28番。」

「いくら君でも多人数相手にライフル1丁ではどうしようもないだろう?」

「大丈夫。村長さん、すみませんが上手に人質役をやってくださいね。」

「あ、なるほど。」


みんなの顔に笑いが戻る。


「これ、うちの車のキーです、アスカさん。

「ありがと、エミル。」


にっこり笑うアスカ。村長がその間に縛り上げられる。もちろんすぐに自分でほどけるように。


バアーンッ!


戸を蹴り開けるアスカ。


「みんな!わたしはここよっ。おっと、動いたら村長のお腹に穴があいちゃうからね。」

「村長!」

「ああっ、村長さんが。」

「卑劣だぞ、アスカ。」


罵詈雑言の嵐。またまただいぶ評判が下がちゃったわね。悪党共、この分も利息付けて返してもらうからねっ。

詰め寄る群衆。

アスカは一発空にむかっ発砲する。おおおっというどよめきと共にあとずさる人々。


「アスカは大丈夫か?」

「ああ、小柄なのが幸いして群衆にすっぽり隠れている。これなら、狙撃の恐れもないな。」


家のなかから様子を伺うコフツとカール、エミール達。


「皆の衆、こらえてくれ。アスカは気が立っている。ほんとに撃たれてしまう。」


村長が情けない声で皆を制止する。アスカと村長が進む先の群衆が二つに割れていく。村長の車に乗り込む。

群衆の目は悔しさと怒りにぎらぎらしている。

その中を発進した村長の青るり色のBMWは煙を巻上げて走り去った。








その晩。アスカの支援部隊は庁舎、自治警察など敵側の息がかかっていると思われる施設や、官舎にになだれ込んだ。総勢約200人。


「町長を探せ、警察署長を捕縛しろ!別班は証拠書類を捜索しろ!」


殺気立って制圧に走り回る支援部隊。しかし待ち受けていた警察部隊や、地方軍、憲兵部隊と激しい争いになった。

その数約2000名。あちこちで衝突が繰り替えされ、攻防が始まって2時間後の22時にはアスカの部隊は議会に追い詰められた。


「怪我人は出ていないなっ。」

「大丈夫。そこはそれ、アスカの仕込みがいいからな。負傷者はゼロだ。」


外からかさにかかった憲兵部隊が叫んでいる。


「おまえ達には逃げ道はないぞ、降伏しろ!」


返事代わりに軽機や小銃が空に向かって撃たれる。何発かの曳光弾が尾を引いて放たれる。


「ふん、もう少し頭がいいと思ったがな。これでアスカ達のグループは一網打尽だ。」

「この後徹底した情報管制を敷けば中央の調査が入る頃には証拠は完全に消せる。」

「また甘い汁を何年か吸えるというものさ。わははは、天才的な指揮官とかいっても所詮はガキさ。」


穏健派」の腐敗議員達が戦況を聞きながら後方の市庁舎特別室でのんびりくつろいでいる。


「今のを録画できたか。伍長!」

「了解、鮮やかに取れていますよ。大尉殿。」

軍用の超高性能集音マイクと室内回線に入り込ませたムシと呼ばれる画像送信機を操作する技術者が答えた。


「よし、突入!」

「主力突入。主力突入。」


議会の周囲が突然爆発的な明りに包まれる。消音装置つきの軍用ヘリ十数機がサーチライトをつけて降下してきたのだ。

後方の門から次々と突入してくる戦車部隊。ヘリから次々と降り立つ強行制圧部隊。

歩兵部隊が町の外壁を乗り越えて続々と侵入してくる。威嚇の40mmグレネードが次々と放たれる。

激しい爆発音。崩れ落ちる市庁舎外壁。燃え上がる警察部隊の移動テント。戦車機銃の掃討射撃音が響き渡る。


「こっ、これは!どこの部隊だ!?」


憲兵、地方警察部隊に動揺が走る。圧倒的な物量である。敵してかなう相手ではない。

黒地に深紅のグリフォン、2本の黄金剣を描いた軍旗が翻る。


「シュタインベルゲンだ!シュタインベルゲン第2方面軍総司令部の直衛部隊だ!」

「ばかな!第6地方軍管区司令部を飛び越えて方面軍が動いたと言うのか。そんな前例はないぞ!」


うろたえきった部隊長自らも、続々と周囲に降下してくる空挺団になすすべが無い。


「だめだ、俺達の負けだ。全員武器を捨てて投降しろ・・・。」


兵員総数8000人余。

たちまちのうちに警察、憲兵部隊は全員投降の羽目になり、腐敗議員全員が何が起ったのかもわからないうちに拘束された。


拘束された議員たちの野戦司令部用テントのまえに1機の夜間戦闘仕様のアパッチ2000が舞い降りてきた。

中から金色のたなびかせて降りたったのは、深紅の軍服を身につけたアスカだった。


「ア、アスカ・ラングレー!!」


うめくように叫ぶ町長達。驚きと屈辱で顔が紫色になっている。


「わかった?私はやられたことは十倍のお土産付きで返す主義なのよ。」


微かに笑うアスカ。青い瞳に異様な輝きが宿っている。


「あんたたちの悪事は全て露見したわよ。もう逃げられないからね。皆の仇、取らせてもらう。」


腰のホルスターから、軍用拳銃を抜き出す。ガチン、安全装置がはずれる。その筒先は町長をまっすぐに狙っていた。


「ま、まてっ!頼む待ってくれっ。何でも話す、何でも話すから待てっ!」


全員が真っ青になって後退する。アスカの耳にはなにも届いていない、こいつらが、こいつらが私のクリーネを殺した・・・。

完全に憎しみの虜になっているアスカの瞳を見ると味方の兵達でさえ何も言えなくなっていた。本気で一人一人を射殺するつもりだ。

震える手が、真っ直ぐに町長の顔に狙いを定めている。引き金に掛かる指に力が入る。この娘本気だ、脅しやはったりではない!

どこかで、どうせ助かるのではと思っていた連中に今度こそほんとの恐怖が襲い掛かった。

愚か者は最後の瞬間までその命が失われる事に気づかないものだ。


「ひ、ひいいいいい〜っ、人殺しぃーーーーーー!!!」


あわあわと腰を抜かして壁際に追いつめられていた議員達が断末魔の悲鳴をあげたその瞬間、引き金が引かれた。


ガン!ガンガンガン!ガンガン!
ガンガンガンガン!ガンガンガンガン!ガンガン!!


銃室に詰め込まれていた分を含めて16発の弾丸が発射された。議員の額や胸が真っ赤に染まり、悲鳴と共にのたうって倒れて行く。


ガチッ、ガチッ、ガチッ・・・。


アスカの指は、まだ引き金を引く事を止めなかった。その瞳から限りなく涙が流れ出ている。


「クリーネ、クリーネ、クリーネェェェェェェェッ!!」


万感の思いを込めてアスカは叫んだ。

もう二度と帰ってこない、優しい友達の顔を思い描きながら叫んだ。その声が夜空に悲しく消えていった。






もう一機の夜間戦闘ヘリが中央広場に降下した。

シュタインベルゲンのコプレンツ医監中将と、方面司令官サドラック中将、そしてもう一人の年配の軍人であった。

3人はアスカに近づいた。3人に気づいて周囲の兵も直立不動の姿勢を取る。アスカも涙をぬぐうとしっかりと敬礼をした。


「アスカ大尉、ご苦労だった。しかし・・・派手にやったのう。」


方面軍司令サドラックが声をかける。


「はいっ!この罪は私一人で受けるべきものです!」


一時の感情に任せて議員たち全員を射殺してしまった。証人としても重要であったのに。しかし撃たずには・・・。


「コプレンツ、君の教え子はどうも貴官と同じような性格らしいな。まあ、やっちまったもんは仕方ないな。」

「大丈夫。アスカだって馬鹿じゃない。人殺しなどしないさ。」

「え・・・?」

「バルクシンゲル伍長!」

「はいっ!」


アスカと一緒に盗聴を行っていた若い伍長が走って来る。


「貴様、わしの指示通り上手くやってくれただろうな。」

「はいっ!アスカ大尉殿の拳銃の弾丸全ては、射撃訓練用のペイント弾にすり替えてあります。」

「よしっ!近頃のペイント弾は着弾の迫力も、反動も、専門家でもなければ絶対に区別はつかん。たいした物だ。

まあ、あいつらも魂だけが地獄巡りをしている気分だろうよ。」


へたへたとしゃがみこむアスカ。やられた・・・この老人に。

笑いながら再びサドラックが言う。


「アスカ大尉、君の気持ちは分かる。だが必ず奴等には軍法会議でも一般裁判でも極刑が下されるだろう。今回は暫く待て。」

「はい、本物とばかり思って撃ちましたので気が抜けてしまいました。彼らには全てを話させて、病根を絶って頂ける様お願いいたします!」

「しかしな、アスカ。今回はだいぶわしの一存で軍を動かすために無理もしておる。こちらにいるのは特務監察部のヌーナン大佐だ。彼が以前から

この件の詳細調査を進めていたために、この馬鹿どもや、地方軍管区司令官ストラコフ・J・ゲルツェン少将の動きを抑える事が出来たのだ。

色々弱みを握られていたらしいな。冬の間は動く事に非常な制動がかけられていてどうしようもなかったのだが、彼の持つ中央へのパイプによって、

君の救援依頼のために動く事が出来たとも言える。ヌーナン大佐に礼を言っておき給え。」


ヌーナン大佐は、特務将校らしい、冷たい無表情な顔のままアスカを見つめた。どこかで見た記憶のある冷たい視線だった。


「あ、あんたは、あの時私を何回もひっぱたいた・・・っ。」


にやりと笑う大佐。あうあうと悔しそうに口を開けていたアスカだったが、あきらめて敬礼の姿勢を取る。


「ありがとうございました。ヌーナン大佐殿!」

「アスカ大尉。君のおかげで一気に調査を終える事が出来た。しかし貴官はいろいろ見逃せない違法行為も犯している。

司法取引と言う事で、いろいろ証言をしてもらうし、調査への協力をせねばなら無い事になるが、覚悟しておいて欲しい。

今後1年くらいの間、ここを離れシュタインベルゲンで監視下に暮らしてもらう事になる。いいな!」

「はっ!喜んで。」


アスカは敬礼を返した。コブレンツ中将に尋ねる。


「先生、見逃せない違法行為って?」

「建前上な。おまえの身柄を暫く保護しておかない事には、やばくて仕方が無い。軍も一枚岩と言うわけではないのでな。」





「みんなっ!!アスカのために5回祝声だっ。」


コフツとカールが、ツバンティッヒ自警団の皆に向かって叫んだ。

周りを取り囲んでいた方面軍の数千の兵達までも同意の叫び声をげた。


「いくぞ!足を踏み鳴らせ、気勢を上げろぉー!!」


自警団の皆が、方面軍の兵達が駆け寄ってくる。

サドラック中将が投げて寄越した軍旗にアスカはたちまち包まれ、その後、空高く放り上げられた。








「万歳!アスカ!万歳!アスカ!万歳!アスカ!万歳!アスカ!万歳!アスカ!Wooooo !! 」












そのままそこでツバンティッヒのみんなと抱き合って別れを惜しんだ。私はシュタインベルゲン基地に留め置かれ、

証言記録を取られたり、裁判所や中央連邦議会に参考人として呼ばれたりした。

地方軍管区司令官ストラコフ・J・ゲルツェン少将にはすでに軍法廷で、階位剥奪、銃殺刑が確定し軍刑務所に収監された。

汚職議員証言は政界の根幹を揺るがした大スキャンダルに発展した後、彼らには国家転覆謀議、反逆罪等の理由で死刑が求刑された。


そんな話も、アスカは基地の中で聞いた。


基地の中は静かだった。





















ぼくのわがままな恋人3:ドイツにて エピローグ/終


後書き:

ドイツにて、は今回で終わりです。
しかしまだアスカはドイツに残っています。その後のアスカがどうして日本に戻ることに
なったのかは、この後の一章にて書かれる事になると思います。
まだ時間がかかると思いますが、宜しくお願いいたします。/こめどころ


人生の中で辛い事って何でしょうね?

肉親の死も勿論辛いでしょう。自分は見ているだけで何も出来ない事も辛いと思う。

だけど、自分の為に笑ってくれる、泣いてくれる、そして命までも救ってくれる友人の死を足蹴にするような人が居る事って凄く辛いですよね・・・

自分も相手をどれだけ思っているか、どれだけ大切に思っているか、その思いが強ければ強いほど悲しみは倍増していくものだと思います。

 

話を更新したからといって、この話だけを読むのでは無く、改めて”ぼくのわがままな恋人 ドイツにて”、そして”僕のわがままな恋人1・2”を初めから読み直して見て下さい。

こめどころさんが読者である僕たちに伝えたい事がはっきりと見えてくると思います。

悲しみを乗り越えたからこそ、見える幸せの嬉しさ、そしてそれが大切なのだと感じ取れるでしょう。

 

皆様、こんなにも凄い心情描写をされる、こめどころさんに感想と励ましのメールを出しましょう(^o^)丿

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日本に帰る前のお話である次がどうなるのか、とても楽しみですね。

 

 

この作品は、もきゅうさんのWebサイト、太(いぬ?)に投稿したものを、公開サイトを当サイトに変更したものです。

コメントはもきゅうさんが公開当初につけていただいた物です。

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